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肉屋のせがれ、実家の手伝いで毎朝モンスターを狩っていただけなのに、いつの間にか人類最強になっていた  作者: 犬斗
第二章

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第22話 最速狩猟祭

 ◇◇◇


 王立ヴォルア騎士団の中でも、精鋭部隊と呼ばれる第一師団。

 その象徴たる一番隊、通称ディード隊による半年に一回のイベントが、ディード発案の『最速狩猟祭』だ。


 内容は、ディード隊の全十小隊で狩りのスピードを競う。

 一位には賞品が出る。

 そして、最下位には罰がある。


 ここまではよくあるイベントだが、問題はこの最下位だ。

 一位以外は全て最下位という、無茶苦茶な順位づけだった。

 二位でも十位でも同じ内容の罰を受ける。

 そのため、適度に手を抜き、最下位にならなければいいという甘い考えは通用しない。


 このディード隊の狩猟祭は、騎士たちの中で『祭の皮を被った拷問』と呼ばれていた。


 ルールは五つ。

 一、狩猟の武器は大型ナイフ一本。

 二、成人男性の体重と同じ重量のリュックを背負う。

 三、その他の荷物の携帯は一切禁止。

 四、指定された獲物の狩猟スピードを競う。

 五、隊長であるディードも参加する。


 なお、この最速狩猟祭は、ディードが隊長に就任した三年前から開始されているのだが、過去六回の優勝者は全てディードだ。

 つまり、毎回全隊員が罰を受けていた。


 ◇◇◇


 隊員が準備を開始した。

 ディードさんも準備するということで、一旦隊長用のテントへ向かう。

 入れ替わるように、ドーレスさんが俺に顔を近づけた。


「アステルさん。参加されるということですが、あまり無理せずに……」

「え?」

「隊長のあの雰囲気からは、想像もつかないほどの辛い狩りになります」

「え! そ、そうなんですか⁉︎」

「隊長はその……ここだけの話……」


 周囲をキョロキョロと見回すドーレスさん。


「ちょっと……。いえ、だいぶ空気が読めないお方でして……」

「で、でも自分は一応冒険者ですから、なんとかついていこうと思います」

「分かりました。私はこの会場で審判をしていますので、無理だと思ったら迷わず帰還してください」


 隊員たちが重そうにリュックを背負い始めた。

 腰にはナイフが一本のみ。


「アステルさん。こちらが全員と同じリュックです」

「はい。お借りしますね」

「重いですが……」

「はい、大丈夫です」


 俺もリュックを背負い、ナイフを貸してもらった。

 リュックは確かに重いが、親父の重い武器で慣れている。

 これくらいなら問題ない。

 そして、ドーレスさんから狩りのルールを聞いた。


 準備を終えると、テントからディードさんが姿を見せた。

 ディードさんもリュックを背負っているのだが、リュックで身体が隠れている。

 もはやリュックが歩いているようだ。


「アステルさん。この狩猟祭は小隊のチーム戦ですが、私は隊長として一人で参加します。アステルさんは私と同じチームでよろしいですか?」

「せっかくだから、自分も一人で大丈夫ですか? 実は狩りは少し得意でして。ご迷惑はおかけしません」

「おお、さすがですね。では、アステルさんもお一人で参加ということにしますね」

「はい! ありがとうございます!」


 準備を終えた隊員たちが再度整列した。

 先ほどとは違い、ふらつく隊員の姿もある。

 ドーレスさんが全員の前に立つ。


「今回の目標を発表する! 動物は森牙豚(フォルコ)一頭! モンスターは火斑牛獣(フィアルド)一頭! 各チーム、狩猟の証拠を持ってくるように!」


 動物とモンスターをそれぞれ一頭ずつ狩るルールだ。


 森の草食動物である森牙豚(フォルコ)の体長は、小柄な女性の身長の二倍近くある。

 問題はDランクモンスターの火斑牛獣(フィアルド)だ。 

 中型モンスターで、体長は成人男性の三倍はある。

 二本の大角を持ち、人を見ると見境なく襲ってくるほど気性が荒い。

 草食という理由でDランクだが、冒険者の中では実質Cランクと変わらないと言われている。


 ドーレスさんが右手を挙げると、全員が森の入り口に身体を向けた。


「準備はいいか!」

「「「おおぉぉぉぉ!!!!」」」


 全員が気合を入れるかのように大声で応えた。


「最速狩猟祭っっ! 始めっっ!!」


 ドーレスさんの号令で、狩猟祭が始まった。


「行くぞぉぉ!」

「隊長に負けるなっ!」

「急げっ!」


 各隊が叫びながら集団で森へ入っていく。

 だが、ディードさんは笑顔を浮かべているだけで特に動かない。


「あれ? ディードさんは行かないんですか?」

「行きますよ。ですが、彼らが出たばかりだと森が渋滞してしまうので、少し時間をおいていくんです」

「なるほど。頭脳的ですね」

「戦略です。戦いというものは、戦う前から始まっているのです。ふふふ」

「じゃあ、俺も少し待ちますね」

「あら、余裕ですね」

「そんなことないんですけどね。ははは」


 俺が森に入らない理由は言わないほうがいいだろう。

 以前の特別試験のように、理解されないと思う。


 俺とディードさんは、重い荷物を背負いながら森へ入っていく騎士たちを眺めていた。

 

 ◇◇◇


 ディードは視線だけ動かして、隣の爽やかな青年の様子を探っている。

 川で助けてくれた時から優しく純粋で思いやりがあり、常に笑顔で、誰に対しても丁寧な姿勢は好印象だった。


(新人冒険者さんか……)


 アステルの身長は自分よりも高く、バランスの取れた体格ではあるが、見た目は普通の青年だ。

 だが、ディードの騎士としての予感が告げていた。


(この人、強い――)


 達人であるディードは、アステルのさり気ない動きから、強さを推し量っていた。

 達人は達人を知るとはまさにこのことだ。


 現在二十三歳のディードは、二十歳にして王立騎士団の精鋭部隊である第一師団、それもエリート中のエリートと呼ばれる一番隊の隊長に任命された。

 誰もがディードを将来の騎士団総帥だと噂する。

 あまりに突出した才能は、時に嫉妬の対象となり、一部からは化物と揶揄されるほどだ。


 だが、ディードは知らない。


 本当の化物を――。


 この時点でアステルは、すでに森の中にいる森牙豚(フォルコ)と火斑牛獣(フィアルド)の気配を捉えていた。

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