第22話 最速狩猟祭
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王立ヴォルア騎士団の中でも、精鋭部隊と呼ばれる第一師団。
その象徴たる一番隊、通称ディード隊による半年に一回のイベントが、ディード発案の『最速狩猟祭』だ。
内容は、ディード隊の全十小隊で狩りのスピードを競う。
一位には賞品が出る。
そして、最下位には罰がある。
ここまではよくあるイベントだが、問題はこの最下位だ。
一位以外は全て最下位という、無茶苦茶な順位づけだった。
二位でも十位でも同じ内容の罰を受ける。
そのため、適度に手を抜き、最下位にならなければいいという甘い考えは通用しない。
このディード隊の狩猟祭は、騎士たちの中で『祭の皮を被った拷問』と呼ばれていた。
ルールは五つ。
一、狩猟の武器は大型ナイフ一本。
二、成人男性の体重と同じ重量のリュックを背負う。
三、その他の荷物の携帯は一切禁止。
四、指定された獲物の狩猟スピードを競う。
五、隊長であるディードも参加する。
なお、この最速狩猟祭は、ディードが隊長に就任した三年前から開始されているのだが、過去六回の優勝者は全てディードだ。
つまり、毎回全隊員が罰を受けていた。
◇◇◇
隊員が準備を開始した。
ディードさんも準備するということで、一旦隊長用のテントへ向かう。
入れ替わるように、ドーレスさんが俺に顔を近づけた。
「アステルさん。参加されるということですが、あまり無理せずに……」
「え?」
「隊長のあの雰囲気からは、想像もつかないほどの辛い狩りになります」
「え! そ、そうなんですか⁉︎」
「隊長はその……ここだけの話……」
周囲をキョロキョロと見回すドーレスさん。
「ちょっと……。いえ、だいぶ空気が読めないお方でして……」
「で、でも自分は一応冒険者ですから、なんとかついていこうと思います」
「分かりました。私はこの会場で審判をしていますので、無理だと思ったら迷わず帰還してください」
隊員たちが重そうにリュックを背負い始めた。
腰にはナイフが一本のみ。
「アステルさん。こちらが全員と同じリュックです」
「はい。お借りしますね」
「重いですが……」
「はい、大丈夫です」
俺もリュックを背負い、ナイフを貸してもらった。
リュックは確かに重いが、親父の重い武器で慣れている。
これくらいなら問題ない。
そして、ドーレスさんから狩りのルールを聞いた。
準備を終えると、テントからディードさんが姿を見せた。
ディードさんもリュックを背負っているのだが、リュックで身体が隠れている。
もはやリュックが歩いているようだ。
「アステルさん。この狩猟祭は小隊のチーム戦ですが、私は隊長として一人で参加します。アステルさんは私と同じチームでよろしいですか?」
「せっかくだから、自分も一人で大丈夫ですか? 実は狩りは少し得意でして。ご迷惑はおかけしません」
「おお、さすがですね。では、アステルさんもお一人で参加ということにしますね」
「はい! ありがとうございます!」
準備を終えた隊員たちが再度整列した。
先ほどとは違い、ふらつく隊員の姿もある。
ドーレスさんが全員の前に立つ。
「今回の目標を発表する! 動物は森牙豚一頭! モンスターは火斑牛獣一頭! 各チーム、狩猟の証拠を持ってくるように!」
動物とモンスターをそれぞれ一頭ずつ狩るルールだ。
森の草食動物である森牙豚の体長は、小柄な女性の身長の二倍近くある。
問題はDランクモンスターの火斑牛獣だ。
中型モンスターで、体長は成人男性の三倍はある。
二本の大角を持ち、人を見ると見境なく襲ってくるほど気性が荒い。
草食という理由でDランクだが、冒険者の中では実質Cランクと変わらないと言われている。
ドーレスさんが右手を挙げると、全員が森の入り口に身体を向けた。
「準備はいいか!」
「「「おおぉぉぉぉ!!!!」」」
全員が気合を入れるかのように大声で応えた。
「最速狩猟祭っっ! 始めっっ!!」
ドーレスさんの号令で、狩猟祭が始まった。
「行くぞぉぉ!」
「隊長に負けるなっ!」
「急げっ!」
各隊が叫びながら集団で森へ入っていく。
だが、ディードさんは笑顔を浮かべているだけで特に動かない。
「あれ? ディードさんは行かないんですか?」
「行きますよ。ですが、彼らが出たばかりだと森が渋滞してしまうので、少し時間をおいていくんです」
「なるほど。頭脳的ですね」
「戦略です。戦いというものは、戦う前から始まっているのです。ふふふ」
「じゃあ、俺も少し待ちますね」
「あら、余裕ですね」
「そんなことないんですけどね。ははは」
俺が森に入らない理由は言わないほうがいいだろう。
以前の特別試験のように、理解されないと思う。
俺とディードさんは、重い荷物を背負いながら森へ入っていく騎士たちを眺めていた。
◇◇◇
ディードは視線だけ動かして、隣の爽やかな青年の様子を探っている。
川で助けてくれた時から優しく純粋で思いやりがあり、常に笑顔で、誰に対しても丁寧な姿勢は好印象だった。
(新人冒険者さんか……)
アステルの身長は自分よりも高く、バランスの取れた体格ではあるが、見た目は普通の青年だ。
だが、ディードの騎士としての予感が告げていた。
(この人、強い――)
達人であるディードは、アステルのさり気ない動きから、強さを推し量っていた。
達人は達人を知るとはまさにこのことだ。
現在二十三歳のディードは、二十歳にして王立騎士団の精鋭部隊である第一師団、それもエリート中のエリートと呼ばれる一番隊の隊長に任命された。
誰もがディードを将来の騎士団総帥だと噂する。
あまりに突出した才能は、時に嫉妬の対象となり、一部からは化物と揶揄されるほどだ。
だが、ディードは知らない。
本当の化物を――。
この時点でアステルは、すでに森の中にいる森牙豚と火斑牛獣の気配を捉えていた。




