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肉屋のせがれ、実家の手伝いで毎朝モンスターを狩っていただけなのに、いつの間にか人類最強になっていた  作者: 犬斗
第一章

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第15話 バカげた狩猟

「え?」


 突然怒鳴られたアステルは困惑の表情を浮かべる。

 だが、ハイリッヒたちには、精神的にも時間的にも余裕がない。


「この先にモンスターが出るんだよっ! すぐに帰れっ! 邪魔だっ!」


 もし余裕があれば、将来有望なアステルも連れて行っただろう。

 戦闘はせずとも、格上のモンスターとの戦いを見ることは経験になる。

 だが、今回は危険極まりないネームドだ。

 ハイリッヒといえども、アステルを守りながら戦うことは難しい。


「そ、そうだったんですね。さっき大爪豹獣(ラパルド)を見かけたので狩猟しましたが、他にもいるとは……。すぐ帰ります」

「「「「えっ⁉︎」」」」


 四人が同時に声を出した。


「ま、待てっ! 大爪豹獣(ラパルド)だと?」

「はい。知り合いに頼まれてこの公園を調査していたのですが、大爪豹獣(ラパルド)に突然襲われたので狩猟しました。あのまま放置したら、王都も危なかったかもしれません。あ、でも、皆さんがいるから大丈夫なのか」


 呑気に話すアステルに対し、真剣な表情を浮かべるハイリッヒ。


「襲われた? その割には、お前無傷じゃねーか?」

「大爪豹獣(ラパルド)はこれまで――。あ! い、いえ、その……。運が良かったかなあなんて。あはは」


 アステルにとって、冒険者になる前にモンスターを狩猟していたことは極秘事項だ。

 誤魔化すしかなかった。


 一方、真剣な表情でアステルを見つめるアリシアは、アステルの言葉に嘘がないどころか、何かを隠していると察知した。


「ねえ、アステル。狩猟した大爪豹獣(ラパルド)はどうしたの?」

「そのまま放置しています。ギルドの解体局に運搬を相談しようと思っているんです」

「その場所へ案内しなさい」

「え? は、はい」


 アリシアは、この状況をほぼ理解した。 

 大爪豹獣(ラパルド)は縄張り争いが苛烈だ。

 そのため、同じ森に二頭出現することはあり得ない。

 つまり、アステルが狩猟した大爪豹獣(ラパルド)は、ネームドのソル・デルクル以外にないということだ。


 アステルの案内で、大爪豹獣(ラパルド)の死骸に到着した。


「し、信じらんねえ……」

「真っ二つって……」


 ハイリッヒとアリシアは、死骸を見て言葉を失った。

 四人はしばらくの間、無言のまま大爪豹獣(ラパルド)の死骸を確認する。


 アリシアが立ち上がり、三人を集めた。


「骨格、筋肉、爪、牙、全てが異常発達しているわ。間違いないでしょう」

「ああ。こりゃソル・デルクルだ」

「ねえ、あの切断面を見た? 異常なほど滑らかだったわよ」

「そうだな。しかも、何が恐ろしいって他に傷がないんだ。まさかとは思うが……」


 四人とも額に脂汗をかいていることに気づかない。

 冷静を装っているが内心は混乱している。


「ええ、アステルはたった一撃でソル・デルクルを両断したのよ」


 アリシアが結論を出した。

 剣を最も得意とするハイリッヒが、同じく剣の達人であるアリシアを見つめる。


「アリシア。お前、ソル・デルクルを一撃で真っ二つにできるか?」

「無理に決まってるでしょう。そもそも通常種ですら両断なんて無理だもの。一撃なんてできるわけがないわ」

「まあ、そうだよな……。俺の全力でも無理だ……」


 状況をよく分かっていないアステルは、四人の様子をぼうっと眺めていた。


(この子の気の抜けた表情、まるで他人事じゃない。呆れちゃうわね。自分が何をしたのか、まるで分かってないんだから。本当に信じられないわ)


 アリシアはアステルの他人事の態度を内心で可笑しく感じつつも、表情を崩さず厳しい視線を向けた。


「アステル。状況を報告しなさい」

「は、はい!」


 報告は狩猟クエストの基本の一つだ。

 今回はクエストではないが、アステルはここまでの流れを細かく説明した。


「肉食動物の調査に来たらソル・デルクルを討伐した。こんな話、信じられる?」

「無理だね。小説でももっとマシな物語を作るさ」

「しかもこれ、クエストじゃないのよねえ」

「ああ、バカげている」


 四人の会話の意味が全く理解できないアステルは、きょとんとした表情を浮かべている。

 直前にネームドを討伐した者の顔じゃないと、アリシアはついに吹き出してしまった。


「ふふ、まったくもう……。アステル、状況を説明するわね」


 アリシアは森に設置されたテーブルを指差した。

 そこで話をするつもりだ。


 ◇◇◇


 俺はアリシアさんたちとテーブルに移動した。


「アステル。固有名保有特異種(ネームドモンスター)は知ってる?」

「もちろんです。試験に出ましたから」

「見たことはある?」

「いえ、ないです」

「ふーん……」


 呆れたような表情を浮かべるアリシアさんの視線は、大爪豹獣(ラパルド)の死骸に向けられていた。

 そしてもう一度俺の顔を見つめる。

 そのあまりの美しさは、オーラとでもいうのだろうか、無言の圧力をさらに増幅させていた。


「な、なな、何でしょうか……?」


 俺は耐えかねて声を発した。


「あなたが倒したあの大爪豹獣(ラパルド)はね、ソル・デルクルという名なのよ」

「ソル・デルクル? えーと……」

「名前の意味は闇の光跡。これまで千人以上を殺している凶悪なモンスターなの」

「え! そんなヤバい奴だったんですか! しかも名前があるなんて……。ネームドみたいですね」

「そうよ。ネームドだもの」

「ん? ネームド……。あ、あれ? ネームド? ネームドだって! まさかあれがっ! 嘘でしょっ!」

「嘘じゃないわよ」

「し、ししし、失礼しましたっ!」


 驚きすぎてタメ口を利いてしまった。

 俺はすぐに頭を下げた。


「ネームド……」


 ネームドの存在は当然知っている。

 しかし、一生遭遇することはない伝説のモンスターだと思っていた。


「ねえ、アステル。ネームドと戦ってどうだった? 正直に言いなさい」

「あの……。大爪豹獣(ラパルド)にしては、やけに大きくて速いと思いました」

「え? それだけ?」


 アリシアさんが、驚いたかのように瞳を大きく見開いている。


「は、はい」

「戦って勝てると思ったの?」

「その……、えーと……」

「正直に言いなさいって言ったでしょう?」


 アリシアさんと話して分かったが、この人に嘘や隠し事は通用しない。

 だったら正直に伝えて、なんとか許してもらえるようにお願いするべきだろう。


「あ、あのですね……、勝てると思ったというより、負けるわけがないので……」

「ど、どうしてかしら?」


 俺は大きく息を吸った。


「正直にお伝えしますのでっ! どうかっ! どうかっ! どうかご内密にお願いしますっ! お願いしますっ!」

「ど、どうしたの急に?」

「バレたら実家の店が危ないんですぅ!」


 俺は全力で頭を下げた。

 親父の冒険者カードだけは守らなければならない。

 もし失効なんかになったら、あの歳で地獄の試験を再受験できるわけがないからだ。

 狩猟ができなければ、実家は廃業になってしまう。


「わ、分かったわ。約束は守るわよ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 俺は覚悟を決めて、全てを話すことにした。

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