第11話 試験結果
ギルドに帰還すると、ひとまずこの日は解散となった。
俺は宿への帰り道を歩く。
足取りは少し重い。
「狩猟よりも、ギルドへ帰還した後のほうが大変だったな……」
まず、冒険者がモンスターを狩猟すると、運搬は解体局が対応する。
解体師と呼ばれる専門職が、モンスターを解体して運搬を行う。
今回の狩猟に関しても、実は解体局の解体師は手配されていたそうだ。
しかし、俺は解体師が到着する前に運んでしまった。
運ぶこと自体は問題ないが、通常運ぶ冒険者はいないそうだ。
そのため、解体局の人はドン引きしていた。
というか、少し怒られたくらいだ。
エレダスさんも一緒に謝ってくれたけど、さすがにへこむ。
「ああ、やらかした……」
日没前には宿に帰り、食事を終え、風呂に入った。
狩猟後の風呂に入ると、実家にいた頃を思い出す。
これがホームシックというやつなのだろうか。
「いや、俺は冒険者になるんだ……。頑張ろう……」
早々に就寝した。
***
翌日、俺は人事局の局長室へ向かった。
局長のベルマーさんに挨拶をして、ソファーに座る。
「アステル君、話は聞いたよ。とんでもないことをしてくれたね」
「すす、すみません」
「わはは。怒っているわけじゃないんだ。本当に驚いたよ」
女性秘書がコーヒーを淹れてくれた。
砂糖を入れないことをブラックと呼ぶそうだ。
俺はブラックのままコーヒーを口にする。
苦いが我慢だ。
「まあ、あの体力試験の結果を見れば、大牙猪獣を運んでしまうのも理解できるがね。いや、大牙猪獣を運べるから、あの体力試験の結果なのか……」
そう呟きながら、ベルマーさんが書類の束を取り出した。
「ラルフたちから報告が届いたよ」
「は、はい!」
結局、帰還してからも、ラルフさんたちとはほぼ会話がなかった。
相当印象が悪かったのだろう。
すでに気持ちは切り替えているが、もっと上手くやればよかったと反省している。
反省は大切だ。
「結果だが……文句なしの満点。彼らは様々な角度から分析もしてくれているよ」
「え? ま、満点ですか?」
「そうだぞ。ラルフたちのパーティーは若手でナンバーワンと言われているが、その彼らが最大級の評価をしているんだ」
ベルマーさんが書類をめくる。
「この報告は凄いぞ。『森に入ると同時に、冒険者アステルは大牙猪獣の気配を認識した。卓越した五感による狩猟は、これまでの常識を覆すものだ』。他にもまだまだある」
書類の束は、どうやらラルフさんたちの報告書のようだ。
これだけの量を、昨日のクエスト後に作成してくれていたなんて驚きしかない。
「この結果を元に会議を行った。Dランクの付与に否定的だった者たちも、認めざるを得なくてね」
「そ、それじゃあ試験は……」
「ああ、合格だ」
「や、やった! Dランクだ!」
俺は右手の拳を握った。
昇格試験を行わず、いきなり中級なんて嬉しすぎる。
「そこは違うんだ」
「え? ち、違うんですか?」
当初の予定ではDランクを検討するための試験だったはずだ。
どういうことだろう。
「報告書の最後の一文なんだがね。『Dランクでは実力に見合った適正なランクとは言えない。現時点でDランクを遥かに超えている』とあるんだ」
「え? あの?」
「つまり、君はCランクが決定した。ランクの三つ飛ばしだぞ。二つ飛ばしでも数百年の歴史がある冒険者ギルドで初めてなのに、これは快挙通り越して異常事態だよ。わはは」
「ええぇぇぇぇ!」
まさかのCランクだ。
信じられない気持ちと嬉しさが同時に込み上げてくる。
俺はベルマーさんから、Cランクの冒険者カードを受け取った。
「うわあ、冒険者カードだ」
小さな頃から憧れていた冒険者になることができた。
実際にカードを手に取ると実感が湧いてくる。
それも、想像もしていなかったCランクだ。
この上は上級のBとAランクしかない。
もしかしたら、俺も上級にたどり着けるのかもしれない。
「夢が広がるな……」
カードの文字が滲んで見える。
俺は袖で涙を拭った。
それよりも、ラルフさんたちだ。
正直、怒らせて嫌われたと思っていた。
だが、しっかりと評価をしてくれただけではなく、Cランクまで推薦してくれていた。
感謝しかない。
今度会ったら、ちゃんとお礼を伝えよう。
ベルマーさんが優しい笑みを浮かべながら、コーヒーカップを手にしていた。
「あ、す、すみません。一人ではしゃいでしまって」
「ははは、当然の反応だよ。それに、これからも破られることのない大記録なんだ。思いきり喜ぶといい」
コーヒーを飲み干したベルマーさんが、ゆっくりとカップをテーブルに置く。
「しかし、その年齢でどうやって訓練したのだ?」
「あ、あの……」
親父がやっていたことは言わないほうがいいだろう。
冒険者である親父が、資格のない俺にモンスターを狩猟させていたんだ。
支部長のガドルフさんにバレた時でさえ危なかった。
親父と長年の友人だったガドルフさんだから隠してくれたが、局長というとんでもなく偉い立場の人にバレたら親父の資格が危ない。
それどころか、俺自身もこの試験が無効になるかもしれない。
「実家が田舎で、昔から山で遊んでいたんです」
「ふむ、常に自然の中にいたということだな」
「はい。冒険者に憧れていましたので、いつも山の中を駆け巡って身体を鍛えていました」
「なるほどね。田舎の山は、この付近の森とは大違いだからな」
「そうなんです! 王都の森は凄く上品でした。田舎の山はそれはもう過酷ですからね。よく死にそうになってました。はは、ははは」
「確かにな。私も田舎出身だから分かるよ。わはは」
なんとか誤魔化せたようだ。
その後は様々な書類にサインをして、手続きを終えた。
「さて、アステル君。最後になるが、試験とはいえ狩猟したことには変わりない。大牙猪獣の素材代を支払おう」
「素材代ですか?」
「そうだ。ラルフたちは受け取りを辞退した。全てアステル君に渡すようにとのことだった」
「ラルフさんたちが⁉」
ベルマーさんが革袋をテーブルに置いた。
「金額は八万ルトだ」
「は、八万ルトも!」
「大牙猪獣は食肉になるし、骨や革も使用できるからな。人気の素材なんだ」
親父なんて、もっと大きな大牙猪獣を狩猟させて、さらに店番までやらせて八千ルトだった。
十倍も違う。
冒険者の収入は驚くほど高い。
俺は各種書類や金を受け取り、局長室を後にした。
これでついに冒険者として活動できる。
「おっしゃ! 今日の夕食は奮発するぞ!」
俺は走って宿の食堂に向かった。
◇◇◇
王都の酒場で、三人の男女がテーブルを囲む。
ラルフ、エレダス、リオーラの三人だ。
三人はビールのジョッキを掲げて乾杯した。
「ラルフ。アステル君はCランクに決定したそうだよ」
「そりゃそうさ。ありゃ化物だ」
昨日のクエスト終了後、三人は徹夜で報告書を仕上げていた。
今日はその打ち上げだ。
「しかし、ラルフ。報告は時間をかけたな。アステル君にあんな態度を取っていたのに。ははは」
エレダスがさわやかな口調で、少しだけ嫌みを言う。
「まあ正直ムカついていたよ。それは認める」
ラルフがビールを飲み干した。
「そもそも冒険者試験に合格したばかりの小僧が、中級になるかもしれないなんて信じられないだろ?」
「まあ確かにな」
「俺たちが中級に上がるのだって相当努力したんだ。それを体力試験の成績が良かったからって、簡単に認めるわけにはいかない。何より、ギルドの歴史を作ってきた先人たちに失礼だ」
ラルフは二杯目を注文した。
「しかし、想像以上だった。あんなもん見せられちまったら、不合格にするほうが見る目がないと言われちまう」
「そうね。まさか、あの距離を一発で仕留めるなんて、人間業じゃないわ。しかも他人の弓よ?」
武器は癖がつくため、他人の武器を高いレベルで使用することは難しい。
だがアステルは、ヴォルフが細工した武器を使っていたことで全く苦にならない。
むしろ使いやすいと思っていたほどだ。
エレダスもビールを飲み干す。
冒険者にとって打ち上げは、最も楽しいひとときだ。
「しかし、大牙猪獣を担いだ時は驚いたよな。解体局には申し訳ないけど、本当にギルドに運べるのか見届けたくなったからね。ははは」
「ああ、ありゃ俺も驚いた。正直、言葉が出なかったぜ」
テーブルに置かれた新しいビールを手に取ったラルフ。
「初級冒険者にとってはいい迷惑だ。あんな化物が同じ階級にいたら、やりにくいったらありゃしない。事あるごとに比べられるからな」
「そうだな。同じランクとなった俺たちですら危ないくらいだ。ははは」
エレダスの言葉に大きく頷くリオーラ。
Dランクのリオーラとしては、もうすでに抜かれている。
「ねえ、ラルフ? あの子、うちのパーティーにスカウトしない?」
「そうだな。あれはマジで逸材だ。他のパーティーに取られる前に声をかけよう」
アステルの知らないところで、スカウトの話が進んでいた。
◇◇◇




