第81話 古風な喋り方
冬休み明け、教室の空気は相変わらず乾燥していて、スリッパでペタペタと歩くカーペットの感触がとても懐かしい。
昼光色の蛍光灯が眩しく、ゴチャゴチャとした長机の端では、相変わらず動物たちがパソコンを囲むように並んでいる。
「結城くん、おはよう」
「杉田さん、おはようございます」
「お、結城も来たか!」
「裕介さん、おはようございます。朝から元気ですね」
「ハワイの時差が抜けなくてな!」
「え?」
二人も相変わらずだった。
もうすぐ出会って一年になるのに何にも変わらない。
「おはよう、結城くん」
「東雲さん……おはようございます」
東雲さん。
その胸元には──あのネックレスが着けられていた。
「本当に着けてきたんですね」
「勿論だよ。毎日着けちゃうよ?」
「それは……良かったです」
そこに早瀬さんが相変わらずのコミュ力で現れる。
「おはよう! 東雲さん! え、何か今日、メッチャ綺麗なの着けてない?!」
早瀬さんが早速ネックレスに気付き、ワラワラと他の女子生徒も集まってくる。
東雲さんが人に囲まれているのは初めて見たかもしれない。 私は彼女たちの楽しい話題を邪魔しないように、静かに東雲さんから離れ、自分のパソコンの電源を入れた。
パソコンの起動画面を眺めながら、楽しそうに早瀬さんと話す東雲さんの横顔に、私はもう安心感を覚えていた。
一年前の彼女なら、私の後ろに隠れて服の裾をクイクイっとして、奴らを追っ払ってくれたまえ、みたいな顔で懇願していたはずだ。
……思えば、出会った頃の彼女はもう少し堅苦しい喋り方をしていたような気がする。
今私が思い浮かべた東雲さんは、どこか古風な喋り方をする、出会った頃の東雲さんだった。
最近の東雲さんは本当に同い年のクラスメイトにしか感じられない。
一年間ほぼ毎日一緒に居たのだから、慣れてしまうのも仕方ないのかもしれない。
「結城くんからのクリスマスプレゼントなの」
「?!」
その時、ガヤガヤとした喧騒の中で一際大きく聞こえた東雲さんの声に、私は大きく振り返り、周りに集まっていた女子たちも、私を挟んで反対側の裕介さん、杉田さんまでが私を見て、若干引き気味なくらいに驚いていた。
「し、東雲さん……? そ、それは言わなくても……」
「なんで? みんなプレゼント交換するでしょ?」
「あ……そうだよねっ! クリスマスだもんね!」
早瀬さんの気を遣った言い方が胸に刺さる。
分かっている。もう恋人同士の惚気話にしか聞こえない。
だから私はネックレスの出所については触れなくても良いと思っていたのに、東雲さんは本当に嬉しかったらしく……いや、嬉しかったかどうかは置いておいても、周りに言いふらしたい様子が手に取るように、今なら分かる。
正直、あっという間に売り払われてしまうかと思っていた分、自分のプレゼントを学校で嬉しそうに着けてくれている東雲さんを見れただけで、出した値段分はもう元が取れた気がする。
それと同時に、早瀬さんの瞳の奥に秘められた邪悪な炎が揺らめくのも見えた。
私は振られたっていうのに、お前らは随分仲良くやってるみたいじゃん?
絶対にそう言っている。
……仕方ない、後でご飯でも奢ってあげよう。
全90話で完結予定です。
少しの間、お付き合い頂ければ幸いです。




