第78話 魔法の言葉
「結城くんはクリスマスどうするの?」
「……どうするの、とは?」
冬休みには宿題は出ていない。
だから集まる理由がない。
だが、そんなことは東雲さんには関係ないのだろう。
「何かしないの?」
「……別に何もしませんよ。マカダミアナッツを食べながら、楽しい年末を過ごして──」
「つまらないよっ!」
……私はつまらなくないよ、東雲さん。
私は一つ、マカダミアナッツを口に放り込んだ。
「結城くん! マカダミアナッツ食べてるでしょ!」
……鋭いね、東雲さん。
私はもう一つ、マカダミアナッツを放り込んだ。
「食べてませんよ」
「嘘つきっ!」
電話口だと面と向かうより大分気が楽だった。
物理的な距離が、心の距離と連動する。
私が思う友達との正しい距離感で話が出来ている気がする。
これだ。この距離感を覚えよう。
「だからさ、クリスマス、結城くん家、行っていい?」
「駄目です」
「何で?!」
東雲さんも話しやすいのか、売り言葉に買い言葉で、テンポ良く会話が進む。
「クリスマスは…………用事があるんです」
「ないでしょ!」
「ありますよ」
「ないよっ!」
自然と笑みが零れる。
さっきから私は楽しくて仕方ないのだけれど、それを伝えたら彼女は怒るかもしれない。
それを思い浮かべるだけでも、私は今、もう楽しい。
「……じゃあ、クリスマスイブは?」
彼女のとても不満そうな声に、流石に遊び過ぎたような気がして、そろそろ真面目に答えることにする。
「そうですね、じゃあ……クリスマスイブに遊びましょう」
「ほんと?」
「でも私の狭い部屋で良いんです? どこかに出掛けるなら一緒に行きますよ?」
「お家デートで良い!」
「……」
……コイツはもう『デート』という魔法の言葉で何でも出来ると思っている。
クリスマスをどうしても一緒に過ごしたいという意図は分かっていたが、ここまで食い下がったのは初めてな気がする。
「クリスマスパーティにしよ! 食べ物とか飲み物持ってくね!」
私なんかと過ごしてないで誰かクラスの女子でも誘ってみれば良いのでは? と言いたい気持ちを必死に抑える。
クラスには私より格好良くて話し上手な男子だって沢山いる。
……そんなことになれば私は二度と口を利かないと思うが、何なら裕介さんや杉田さんの方がどう考えても魅力的だ。
どうして私なんかに構ってくれるのか、結局一年経った今でも分からない。
嬉しそうな彼女の声を聞くほどに、私は私の価値を疑わずにはいられない。
彼女にとって私は一体何なのか。
どうして私に構うのか。
友達の一人と言えるのか。
それともやはり周りに置いておきたいだけの"ぬいぐるみ"の一つなのか。
……いけない。
それ以上はいけない。
私はまた一つ。
マカダミアナッツを口に含んだ。
全90話で完結予定です。
少しの間、お付き合い頂ければ幸いです。




