第77話 お土産のネックレス
【タイトル:】
皆様、こんばんは、蒼羽です。
修学旅行から帰ってきました。
ハワイはとても楽しかったです。
「…………」
私はパソコンの前で固まっていた。
数行書いたブログ記事の冒頭を見つめ、もうかれこれ一時間、修学旅行で起きた一部始終の回想に襲われていた。
記事のタイトルも決められないまま、デスクチェアでゆっくりと回る。
自分一人しか居ない部屋の広さが懐かしく、ベッドの上に寝転がる少女の残像が、回る景色の中、見えたり見えなかったりを繰り返す。
ゴミ箱の中には力任せにクシャクシャに丸められた紙袋。
しっかりとした紙質が、中身の値段を思わせる。
「……………………」
私はおもむろに、デスクの下に付いた引き出しを開く。
これまで、この場所に何か入れていたことは一度もない。
ただの飾りのスペースだった。
そこには今──。
「…………………………………………」
──ピンク色のワンピースに似合うであろう、ピンクゴールドにダイヤモンドが入った可愛らしいネックレスが置かれている。
……こんなの『友達』に贈るべき物じゃない。
勿論そこまで高いものではないが、修学旅行のお土産に、ダイヤモンドのネックレスを贈る奴が、世界の何処にいるだろうか。
「……馬鹿だろ」
バイト代とディスプレイの優勝賞金が手元にあったとはいえ、こんな物にお金を出してしまった自惚れの頭を、タイムマシンがあるなら殴りにいきたい。
家族にも山ほどのマカダミアナッツや服やキーホルダーを買っている分、お土産に文句は言われなかったが、自分の為のお土産は何一つ買わなかったことに、帰国してから気がついた。
手元に残ったのはネックレスが一つ。
母か妹に渡してしまうか迷ったが、他にない以上、これを自分のお土産にすることにした。
……夏の花火大会以降、ブログに彼女を登場させたことはない。
あのゲームが面白いとか、あのアニメがつまらないとか、あの新作を食べてみたとか、あの料理を作ってみたとか、なんてことない日常を、みんなと共有して満足していた。
この場所こそが、私にとっては、放課後に仲間と集まる文化部の部室のような場所だったのだ。アニメや漫画によく出てくるだろう。何はなくとも顔を出して、今日あったこと、愚痴、次の休みの予定、コンビニの新しいスイーツ、少ないお小遣いの使い道、どうでもいいことを話して……笑い合える場所だった。
「…………書くか」
私はずっと放ったらかしになっていたマウスを手に取り、記事のタイトル入力欄にカーソルを合わせた。
馬鹿な男の、馬鹿な空回りを、みんなで笑い者にしよう。
それで良い。
ただし二人だけの思い出は……ここには書かない。
あの夕暮れの海も。
シャワーの音も。
星空の下で絡めた小指の熱も。
楽しい思い出は、私の中にさえあれば良い。
これから先、一生の道を照らしてくれる光。
私はキーボードで打ち込んだ。
【タイトル:お土産のネックレス】
全90話で完結予定です。
少しの間、お付き合い頂ければ幸いです。




