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第73話 最高のハワイ旅行に乾杯!

 窓の外には、息を呑むようなハワイの夜空が広がっていた。

 漆黒の海に溶け込む満天の星。

 開け放たれたテラスから吹き込む夜風は、静かな波音と潮の香りを運んでくる。






「……って、何で当たり前のように私の部屋でくつろいでんのよ?!」





 大袈裟なリアクションで部屋に殴り込んで来た早瀬さんが、ソファに座る私を指差して声を上げた。





 カーテンレールに干していた私の服は、早瀬さんが戻ってくるまでに全然乾かず、近くの店で手頃なTシャツとハーフパンツを東雲さんに買ってきてもらって事なきを得た。


 本当に申し訳ない。


 でもおかげで一番ハワイを楽しんでいるような格好になった。







 今は着替えを済ませ、東雲さんの帰り支度……つまりパッキングを手伝っていたのだが、それもあらかた終わったため、私は一人掛けのソファで勝手にくつろいでいる状態だった。





「東雲さんも居るんですから『私の』ではなく『私たちの』が正しいのでは? 勝手に独占しないで下さい。それに、自分は忍び込んだわけでも押し入ったわけでもありません。荷物持ちとして呼び出されたんです」




 ベッドの上で荷造りをする東雲さんが「結城くん、すっごく役に立ったよ?」と悪びれもせず笑う。


 まぁ、これは今日を二人で過ごしたことを誤魔化すための嘘。






 ──だったはずなのだが。






「……結城くん、今日一日ここでゴロゴロしてたんでしょ? 流石に女子の部屋に入り浸り過ぎじゃない? さっさと帰りなよ。裕介くんが寂しがってるよ?」






 その言葉に、東雲さんがピタリと動きを止めた。






「……早瀬さん、どうして今日、結城くんがここに居たって知ってるの?」


「………………え?」


「「…………え?」」


「て、適当にカマ掛けてみただけなんだけど……」 


「「……」」






 私たちは……スーっと。

 互いに別の方向へと、早瀬さんから目を逸らした。


 状況を察した早瀬さんはケラケラと笑い、東雲さんにズイッと顔を寄せた。





「嘘?! 本当に呼んだの?! この部屋で何してたの?!」





 私は飲んでいたジュースを噴き出しそうになり、東雲さんは茹でダコのように真っ赤になる。





「な、何もしてないよ! 変なことなんて……!」


「怪しい! え? あ! まさかこのベッドで?!」


「「してないしてない!」」





 私たちは見事なユニゾンで否定したが、早瀬さんのニヤニヤ顔を止める効果は全くなかった。




 そんな騒がしいやり取りのあと、私たちはハワイ最後の夜の食事会を始めた。


 スーツケースの間に並べられたガーリックシュリンプやスパムむすび。





「そういえばさ」





 早瀬さんが、まるで明日の天気の話をするような軽い調子で切り出した。





「私、今日彼氏と別れちゃったんだよね」


「……え?」





 東雲さんがプラスチックのフォークを落とし、私はカップを持つ手を止めた。


 初日の深夜、ロビーで泣き崩れていた彼女の姿を思い出す。





「えっ、本当? なんで……そんな急に……」





 東雲さんが心配そうに覗き込むが、早瀬さんはあっけらかんと手を振る。




「ううん、全然引きずってないから大丈夫! ハワイの風が背中を押してくれた感じかな!」




 私は静かにジュースを一口飲んだ。


 彼女の気丈で優しい嘘。

 それを暴くような無粋な真似はしない。


 私は彼女を真っ直ぐに見つめ、あの深夜、ロビーで交わした言葉をもう一度、贈るように口にした。




「……間違いなく、彼の方にバチが当たりますよ」




 早瀬さんは一瞬だけ目を見開き、そして、あの時と同じようにフッと肩の力を抜いて笑った。




「あはは。……そうだね、結城くんが言うなら」


「当たらなかったら、当てに行きましょう」


「うん。……ありがと」




 二人の間だけに流れる、僅かな沈黙。

 何も知らない東雲さんは、自分だけが置いてけぼりにされたような顔で、不満げに唇を尖らせた。




「何か……仲、良くない?」


「仲が良いのは良いことでしょ? ほら湿っぽいのはここまで!」




 早瀬さんは弾けるような笑顔で、プラスチックカップを高く掲げた。




「私の新たな門出と、最高のハワイ旅行に乾杯!」


「……乾杯」


「乾……え、それ、まさか、お酒じゃないですよねっ?!」




 二つのカップと、慌てる私のカップが澄んだ音を立てる。



 窓の外では、波が絶え間なく優しいリズムを刻んでいる。

 満天の星の下、ガーリックの匂いと甘いジュースの味が混ざり合うこの部屋で、私たちのハワイ最後の夜は、言葉を越えた温かな絆に包まれて更けていった。

本作を読んで下さっている方々、

ありがとうございます。


本作は小説家になろう及びカクヨムにて、掲載を始めましたが、本日小説家になろうの方でランキング通知が届きました。


現在、日間ランキングで76位にいるそうです。






休日は時間のある方が多いと思い、更新話数を増やしていましたが、それが起因してランキングに入ったようです。


お読み頂きまして、本当にありがとうございます。





1週間ほど小説家になろうの方が掲載開始が早かったので、向こうより話が進んでいるのも理由かと思います。


別にランキングに入ったからと言って何かあるわけではないですが、より多くの人の目に触れて、誰かの記憶に残る機会を頂けたことを嬉しく思います。


改めて、ありがとうございます。

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