第23話 作戦会議
物音一つしない夜の自室。
部屋の照明を落とし、画面の大きなデスクトップパソコンの前に座った私は、某有名SFロボットアニメの最高司令官さながらに顔の前で両手を組み、液晶の青白い光をじっと睨みつけていた。
形から入る完璧なポージングと、人類の存亡を背負ったかのような真剣な眼差し──しかし、私が今モニター越しに向き合っているのは、世界を救うための戦略図などではない。
他愛もない日常を綴る、日記ブログの執筆画面だった。
最近は東雲さんのことばかり書いている気がしないでもない。
誰もいない部屋で自嘲気味にポーズを解き、私はキーボードに指を置いた。
【タイトル:作戦会議】
皆様、こんばんは、蒼羽です。
実は最近、片想いしている女の子を勢いで花火大会に誘ってしまいました。
でも後から急に不安になってきました。
OKは貰えたのですが、彼女は仕方なく頷いてくれただけではないのか。
私なんかと一緒で本当に楽しいのか。
花火大会自体は楽しいものだと思うので、私はその邪魔にならないようにだけ気を付ければいいと思うのですが、もし何かアドバイスがあればお願いします。
あともう一つ。服装に関して聞きたいのですが、彼女が浴衣を着てくるかどうかまだ分かりません。もし自分だけ浴衣を着てしまい、気合を入れてきたように思われたら……想像するだけでも恥ずかしくて夜しか眠れません。空回りして彼女の夏休みを台無しにしてしまうのも怖いです。私は浴衣を用意するべきでしょうか?
パシッと強めにエンターキーを叩き、私は「はぁあ……」と深く声を漏らしてベッドに倒れ込んだ。
十五分後。
スマホが鳴り、いつもの仲間たちから次々とコメントが届き始める。
【緋色】(ゲーマー)
また弱気になってる。
相手もOKしてくれたんだから、もっと自信持って良いよ。
【みかん箱】(主婦)
蒼さん、落ち着いてください。
浴衣は聞いてみればいいだけです。
当日は浴衣を着ていく予定なんですけど、そちらはどうされますか?って。
「なるほど、た、確かに……」
灯台下暗し。虎穴に入らずんば虎子を得ず。
直接聞くなんて一番高いハードルに思えるけれど、それが一番誠実で確実な方法かもしれない。
コメントを読みながら、私はキーボードの手前に広げたノートに素早くメモを書き始めた。
【誠】(トラックドライバー)
露店のトラップには気をつけろ!
タレだくのイカ焼きは初デートの天敵だ!
りんご飴も手が塞がって、いざという時に手を繋げなくなる!
【ベスト】(演劇部)
逆にウェットティッシュは神です!
彼女の足が痛くなったらサッと絆創膏を出してください。
そして最後は告白!
花火のドサクサに紛れるんじゃなくて、ちゃんと二人の空気が出来たタイミングで告白です!
「手を繋ぐ、告白する……」
どこまで出来るか分からないけれど、読者たちのあまりにも実践的すぎるアドバイスに、私は黙々とペンを動かした。
出来上がった『花火大会マニュアル』のページには、ぎっしりと作戦の要点がまとめられている。
「まぁ……無いよりは良いのかな」
少し大袈裟にも思える作戦図を前に、私はふうっと深く息を吐き出す。
完璧なデートになんてならなくていい。
ただ彼女の隣で、花火を見届けて、この想いを伝えよう。
ただそれだけの、けれど間違いなく、私の人生を懸けるべき作戦だった。
「……浴衣って、幾らくらいするんだろ」
全90話で完結予定です。
少しの間、お付き合い頂ければ幸いです。




