第2話 そんな奇跡みたいな瞬間
オフィス街のように人が行き交うアスファルト。
車社会である郊外において、駅前の商業施設は数少ない若者のオアシスになっている。
近くのファミリーレストランは、周辺の学生やサラリーマンで毎日のように混雑していた。
「あー、マジで今回の課題ダルいわー」
「ずっと書いてたの、ギターのコード進行ですよね?」
メロンソーダのストローをかじりながらぼやく裕介さんに、私はティラミスへフォークを入れながら、的確なツッコミも同時に入れる。
すると、隣で日替わりランチのハンバーグをナイフで切り分けていた杉田さんが、低く落ち着いた声で同調してくれた。
「結城くんの言う通りだ。あまり日頃の作業を疎かにしない方がいい。……それにしても、このソースはもう少しナツメグを効かせた方が良いな。肉の臭みがまだ少し残っている」
元シェフらしい視点で淡々とランチを分析する杉田さんを見て、裕介さんが呆れたようにポテトを口に放り込む。
「杉田さん、そんなのファミレスのレベルじゃ無理ですよ」
杉田さんにはしっかり敬語を使う裕介さんが、ふと声を潜めて私を見た。
「そういやさ……結城の隣の『しののめ』さん? 読み方合ってる? ぶっちゃけどんな感じなの? なんか俺、未だに話しかけづらいんだけど」
「どんなと言われても、私もまだ挨拶くらいしか。……ただ、趣味の主張は激しいかもです」
「あー、あの動物園ね。机には何でも置いて良いって言われたからな。みんなあっという間に散らかしたけど」
「人にはそれぞれ、気の休まるテリトリーというものがあるからね。無理に踏み込まないことも肝要だ」
杉田さんがコーヒーカップを傾けながら、スマートに大人の対応を見せる。
「杉田さん……そういう所もモテそうですもんね」
「そういう所とは?」
「女性の扱いに慣れていそうな感じがします」
「はは、よく言われるね」
「……そういう所です」
「もしかして、結城、東雲さん狙ってんのかよ?」
「別に……仲良くする分には良いじゃないですか」
「東雲さんは席が端っこで、話しかけられる人が結城くんしか居ないからね。地の利を生かさないと」
「地の利って……」
「…………大人になったらね、可愛い女の子が隣の席に座って、自分にだけ話し掛けてくれる、そんな奇跡みたいな瞬間、もう二度とやって来ないんだよ? それが今だけ二年間も続くという、まさに奇跡のボーナスタイム! 活かさなきゃ勿体ないよね?」
「……」
「……結城じゃ駄目そうだな」
裕介さんは私の煮え切らない表情に呆れてしまっていた。
その日の話題はすぐに、裕介さんが参加する来週のライブの話へと移っていった。
全90話で完結予定です。
少しの間、お付き合い頂ければ幸いです。




