第17話 彼女が運命の人
私は自室のパソコンの前に座り、重い気持ちのまま、とある入力画面を開いていた。
杉田さんから性格診断のような質問攻めを受け、何となく自分が間違っていたことを自覚させられたものの、いざ明日、彼女の顔をどう見ればいいのか、どう謝ればいいのか全く分からなかったのだ。
私は、顔も本名も知らないけれど、昔から私を陰で支えてくれている人たちに向けて、改まって、恋愛相談のようなことを書き始めた。
【タイトル:正直もう手遅れかもしれないです】
皆様、こんばんは、蒼羽です。
実は最近、私の自分勝手なお節介が原因で、例の人を傷つけてしまったかもしれません。
友達作りに悩んでいるという相談を受けて、私は彼女から距離を取ることにしました。
異性の私がいつも近くにいることで、同性のクラスメイトを遠ざけてしまっていると感じたからです。
ですが、それは私の自己満足に過ぎず、彼女を傷付けるだけだと指摘を受けました。
ここ数日取ってしまった突き放したような態度を、明日謝りたいのですが、正直もう手遅れかもしれないです。
これではただの愚痴みたいだなと思いながら、記事を投稿して三十分。
画面を更新すると、すぐに幾つかのコメントがついた。
【緋色】(ゲーマー)
お疲れ様です。
まぁよくあるすれ違いですよね。
素直に謝ればいいんじゃないですか?
時間は解決してくれないです。
【みかん箱】(主婦)
蒼さん、こんばんは。
少し空回りしちゃいましたね。
離れようとするより、不器用でも隣で一緒に悩んでくれる方が、女の子は安心すると思いますよ。
明日、勇気を出して声を掛けてみてくださいね。
【ベスト】(演劇部)
隣の席の蒼さん好みの子の話ですよね?
もうほとんど一目惚れで、彼女が運命の人!みたいな話じゃなかったでしたっけ?
【誠】(トラックドライバー)
こんばんは。
今日は兵庫のパーキングエリアから読んでいます。
ウジウジ悩んでいても時間は戻らない。
きちんと謝るべきです。
歳も性別も違う四人の言葉を画面越しに読んでいるうちに、私は自分がひどく情けなくなった。
顔も本名も知らない、ネットを介した無責任な言葉たち。
けれど、一切のしがらみがないからこそ真っ直ぐに突き刺さるその温かい言葉の数々は、後悔で凍りついていた私の背中を、確かにふわりと押してくれていた。
【蒼羽】(管理人)
皆様、ありがとうございます。
やはり勇気を出して、明日友人に謝ろうと思います。
許してもらえなくても、私が友人の為だと信じて一生懸命考えた気持ちだけでも、伝える努力はしてみようと思います。
何か上手い切り出し方とか言い方とかありますかね?
この痛切な後悔が、彼女の可愛さを熱弁する少年の青さが、嫌われまいとする必死さが、ネットワークの海を通じて誰に届くのか。
ましてや──この身勝手で不器用な懺悔の言葉たちを、世界で一番知られてはいけない『彼女自身』が。
暗い部屋のベッドの上、傍らに二匹の虚無顔のカエルを侍らせながら、スマートフォンを強く握りしめ、瞬きすら忘れて見つめていることなど。
この時の私は、知る由もなかったのである。
全90話で完結予定です。
少しの間、お付き合い頂ければ幸いです。




