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隠し通せるのか、この純白を

多くの方に見つけていただき本当にうれしいです。ありがとうございます。

鏡の中で頭を抱えてから数分。リコナは人生最速ともいえる速さで着替え、運良く家族よりも先に朝食を済ませることができた。

普段と違う服装に、すれ違う使用人たちは不思議そうに首を傾げていたが、なんとか誤魔化してルクロとのお茶会の支度をする。


(何とか隠し通せてる……このままうまくいけば隠し通せるかも!)



そして、あの衝撃の朝から数時間後。



約束の時間ぴったりに、一台の豪華な馬車がリコナの屋敷の前に止まった。


御者が扉を開けると、今日も仕立ての良い上質な夏用の紺の上着を隙なく着こなす婚約者、ルクロが中から現れた。


彼はリコナの大好きなサラサラの金髪を初夏の風に吹かせながら、いつも通り完璧な挨拶と共に天使フィルターをつけ、極上の微笑みを浮かべてリコナの前に進み出た。



「おはよう、僕の可愛くて愛しい天使(リコナ)。今日も君に会えて、僕は世界一の幸福者だよ」



天使フィルターはさておき、その洗練された美貌と甘い囁きは、普段ならリコナの心臓を心地よく狂わせるものだった。しかし、今日ばかりはそれを受け止める余裕が1ミリもない。




ルクロは顔を上げると、リコナの姿をひと目見ながら、その美しい青い瞳をわずかに見開いた。


「……おや? リコナ。今日はまた、ずいぶんとエレガントな装いだね?」


確かに今日のリコナはいつもと全く違う格好をしていた。


普段なら品よく結い上げているミルクティー色の美しい髪を、今日は珍しく下ろしている。

さらに、初夏の爽やかな風が吹き抜ける、ピクニック日和だというのに、季節外れの目の詰まった高級シルクの厚めのショールを、背中を完全に覆い隠すようにぴったりと、手で握りしめながら羽織っていた。

暖かそうで夏には適さない服装である。


すべては、今朝生えてきてしまったあの純白の「小さな翼」を、ルクロの目から絶対に隠し通すため、リコナなりの必死の隠蔽工作だった。


「え、ええ! そうなのよルクロ! ちょっとね、今日のコーディネートのテーマは『大人っぽさ』なの! ほら、いつも子供っぽく見られがちだから、髪を下ろした方が、格好いいルクロの隣に並ぶのにふさわしいかなって思って……! ほ、ほら、変かしら?」


「変なわけがないだろう! 最高に愛らしいよ。あまりの美しさに、心臓が止まるかと思った。……だけど、なんだか少し、顔色が悪くないか? ショールも分厚いもののようだし、どこか身体の具合でも悪いの?それとも……」


ルクロが優しく微笑みながら一歩、また一歩と距離を詰めてくるたび、危機感を感じたリコナの全身の毛穴がきゅっと引き締まる。


ショールの下で、これ以上羽が広がったり動いたりしないように、肩甲骨の筋肉に限界まで力を込めて、翼をぎゅぎゅぎゅっとショールに押し付けて固定しているのだ。少しでも油断すれば、あの「時限装置」がどう動くか分かったものではない。


「そんなことないわ! いつもと違う服装だから慣れていないだけよ! お茶会の準備はとっくに出来ているから早く行きましょう!」


「待ってくれ、リコナ。無理はいけない。本当に顔色が優れないように見える。」


過保護なルクロは、リコナの言葉を真に受けてなお心配を募らせた。彼はいつものようにリコナの肩に手をまわし、優しく抱き寄せるようにしてエスコートしようとした。


その瞬間、ルクロの大きな手のひらが、リコナの背中にショール越しに触れそうになる。


(ひえっ、触らないで! そこを触られたら、絶対にバレちゃう……っ!)


「ま、まって、ルクロ!本当に元気だから!」


恐怖、焦り、恥ずかしさ。リコナの心の中で渦巻いた強烈な「感情の高ぶり(パニック)」こそが、その時限装置にとって最悪の引き金(トリガー)だった。


リコナの意志や制御を完全に置き去りにして、ショールの奥に封印されていた純白の小さな翼が、

『ぱたぱたぱた! ふわっ、ふぁさっ!!』

と、激しく感情に合わせて羽ばたいてしまった。


「……ん? 風……?」


ちょうどタイミングよく吹い風と、リコナの背中からの風が吹き合わさる。


次の瞬間、リコナのおろしていたミルクティー色の髪が、内側からの羽ばたきによって『ふぁさっ!』と派手に天高く舞い上がった。それと同時に、リコナの手が緩み、背中にかぶせていた高級シルクのショールが、空にふわりと弾き飛ばされる。


「あ」


ショールが地面に落ち、遮るもののなくなった彼女の背中から、純白の小さな翼が『ちょこん』と元気よく外の世界へ飛び出した。


リコナの背中では、やっと解放されたと言わんばかりにぱたぱたと羽が動いている。


必死の隠蔽工作が一瞬で台無しになり、さらに隣で微動だにしない婚約者の気配を感じ取ったリコナは完全に凍りついた。



(終わった……)





ここまでお読みいただきありがとうございます。

もし面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


明日も更新予定ですが、マイペースにがんばります!

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