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天使降臨

本日の更新です

初夏の美しい朝陽を浴びて、神聖なほどにきらきらと輝く羽毛が、ルクロの目の前で、窮屈な場所から解放された喜びを表現するように、パタパタと嬉しそうに羽ばたいている。


沈黙。


風の音や鳥の声さえも消え去ったかのような、完全な静止の時間が二人の間に流れた。


リコナは完全に硬直していた。


完全に人生のチェックメイトだ。


いくら天使のフィルターが何枚も重なっているルクロであっても、自身の婚約者の背中から本物の鳥の羽が生えて、それが目の前でパタパタと動いているのを見たら、怪異だと思って剣を抜くか、あるいは顔を青くして悲鳴を上げて逃げ出すに違いない。


リコナはこれから訪れる最悪の拒絶に身をすくめ、ぎゅっと固く目を瞑った。


しかし、数秒が経過しても、悲鳴も、剣を探す声も、拒絶の怒号も聞こえてこない。


ただ、隣からは規則正しい「はぁ、はぁ」という熱い吐息と、小刻みな振動だけが伝わってくる。


恐る恐る、リコナが片目だけを開けて横を見ると、そこには——。


天を仰ぎ、感動のあまりに両手で己の顔を覆い、いつもの凛々しさを失って、生まれたての小鹿のように激しくガタガタと打ち震えているルクロの姿があった。


「……あ、あぁ……! 奇跡だ、神よ、偉大なる天界の父よ……! 感謝します……!!」


「ル、ルクロ……? あの、驚かせてごめんなさい。私、化け物じゃなくって……」


「化け物!? 何を言っているんだいリコナ!! 比喩ではなかった……! 僕の目は、僕の魂の直感は、最初から一ミリも狂っていなかったんだ! 君は例えでもお世辞でもなく、本当に、紛れもない本物の『天使』だったんだね、僕の天使(リコナ)……っ!!」


ルクロは、これまでの人生で一度も見せたことがないほどの、眩いばかりの輝かしい笑顔を爆発させ、歓喜に震える手でリコナの小さな両手を熱烈にぎゅっと握りしめた。


普段の鋭い面影を無くし、リコナにだけ見せる愛おしさあふれる青い瞳には、感動のあまりか大粒の涙すら浮かんでいる。


こんな姿のルクロを今まで見たことがなくて逆に怖い。


「ちょっと、ルクロ!? 落ち着いて、私が怖くないの?気持ち悪いとか、気味が悪いとか、そういう普通の感想は出ないの!?」


「そんなわけないだろう、おかしなことを言わないでリコナ!! 見てごらん、この光を透過する繊細で美しい羽を!触れてもいいかい? ……いや、だめだ。まずはショールの摩擦で傷ついたかもしれない羽を、王宮御用達の最高級植物から抽出した特別な保湿オイルを用意しなければ! 」


「え?ルクロ?」


「ああ、でも待ってくれ、この特徴、そしてこの圧倒的な神聖さ……僕は歴史書で読んだことがあるぞ」


ルクロは、興奮のあまりいつもの3倍の早口になりながらペラペラと話を始め、リコナの背中の羽を、まるでガラス細工でも扱うような優しい手つきで、そっと撫でた。


その瞬間、衣服の摩擦とは全く違う、ルクロの体温、手触りがダイレクトに羽の根元へと伝わり、リコナの背中に「ぞくっ」とした甘い刺激が走り抜ける。


「ひゃうんっ!?」


変な声が出た。ルクロの手が触れた瞬間、小さな翼が、まるでくすぐられたかのように「きゅん」と小さくすぼまった。その反応さえも、ルクロには堪らないものだったらしい。


「間違いない……! 数百年前、神の愛し子と称されながらも、完全に絶滅したと言われていた伝説の種族——『天使族』だ。リコナ、君のご先祖様には、歴史の中に消えたはずのその尊い血が、奇跡的に流れていたんだよ! ああ、なんという幸福だ、僕の婚約者は本物の天使だった!」


「ええぇ……? 先祖の血……?」


あまりにも壮大すぎるスケールの大きな話をされてパニックになるリコナを完全に置き去りにし、ルクロの「天使フィルター」スイッチは、完全にオンを通り越して焼き切れてしまっていた。


「今日のお茶会は中止だ! すぐに部屋に入ろう! リコナのこの素晴らしい翼をショールで圧迫するなんて言語道断だ。いや、連れ帰ったほうがいいのか……?今すぐ王都で一番の仕立て屋を呼びつけ、君の羽の可動域に合わせた、特注のドレスを春夏秋冬合わせて100着発注しよう! あぁ、それから毎日のブラッシングは僕の生涯の特権にさせてほしい。今すぐ結婚しよう!僕の本当の、本物の天使!!」


「いやあああ! ルクロのテンションが怖いいぃぃぃ!! 誰かこの暴走騎士を止めてええぇぇ!!」



誰にもバレずに隠し通すどころか、愛のガソリンに、天使の羽というイレギュラーの火を注いでしまったリコナ。

目を血走らせてリコナを捕まえようとしてくるルクロから逃れようと、小さな翼をぱたぱたとさせながら、庭園のほうに逃げることになるのだった。






ここまでお読みいただきありがとうございます。


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次回もお楽しみに

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