姿見からみえた「ちょこん」
あの奇妙な痒みをルクロに話してから、三日後の朝のこと。
カーテンの隙間から差し込む柔らかな朝陽が、リコナの寝室を照らしていた。
いつもなら、小鳥のさえずりと共にすっきりと目覚めるはずのリコナだったが、その日は体の違和感を感じて目を覚ました。
「う、うん……? なんだか、背中が変……? 」
お気に入りの天蓋付きベッドの上で、リコナは小さな身体をごろんと寝返らせようとして、ぴたりと動きを止めた。
いつも通り仰向けに寝ようとすると、ちょうど肩甲骨のあたりに、何か『柔らかくて分厚いクッション』のようなものが挟まっている感覚があるのだ。昨夜はベッドの上にぬいぐるみを置いて寝ていないのに。
しかし、マットレスと自分の間に、何か異物が確実に存在している。
良かったことといえば、ここ数日リコナを猛烈に悩ませていた、あの皮膚の奥がゾワゾワするような激しい痒みは、綺麗さっぱり消失していた。
代わりに残っているのは、鈍い違和感。まるで、自分の身体に何かが付け足されて合わさったかのような、奇妙な感覚だった。
(な、何かしら……。まさか、一晩のうちにものすごく大きな腫れ物でもできちゃったの!?)
悪い病気ではないかと一気に血の気が引き、リコナは飛び起きるようにしてベッドから起き上がる。
起き上がって寝台に手をついた瞬間、仕立ての良い白いコットンのナイトウェアの背中側が、妙につっぱって内側からツンと引っ張られるような感覚に襲われる。ただごとではない。
リコナは裸足のまま、ふわふわのカーペットをぱたぱたと踏みしめながら、転びそうな勢いで部屋の隅の姿見へと駆け寄った。
マホガニーの繊細な木枠で縁取られた鏡の前に立ち、恐る恐る振り返るようにして、自分の背中を鏡に映し出す。リコナの背面に、あからさまな白い塊が二つ、ナイトウェアを突き破って出ていた。
リコナは震える手で、起きたばかりの目をゴシゴシと擦る。
「……え」
リコナの口から、間の抜けた掠れた声が漏れ、ペリドット色の瞳が限界まで大きく見開かれる。あまりの衝撃に、呼吸の仕方を一瞬忘れてしまったほどだった。
鏡の中の自分の姿は、いつもと変わらない。ミルクティー色の髪が寝癖で少しふんわりと広がっているが見慣れた小柄な少女だ。
だが、その背中——左右の肩甲骨のあたりから、何かが「ちょこん」と突き出ていた。
それは、混じり気のない、圧倒的な純白だった。
片方の大きさは、リコナの手の大きさくらいのミニサイズだが、天上から授けられたような一対の美しい小さな翼が形を成していた。
何度目を擦ってもただの装飾や幻ではなく、神聖な気配すら感じさせる「本物の翼」だった。
「な、何これ……っ! 羽……⁈鳥の羽……の、おもちゃ⁈いや、そんなわけないわよね、だって私の身体から生えてるもの……っ!」
パニックに陥ったリコナが、現実を拒絶するように自分の両肩をきゅっとすくめた。
すると、その筋肉の動きに完全に連動して、背中の真っ白な小さな翼が『ぱたぱたっ』と、小気味よい音を立てて健気に羽ばたいたのだ。
空気の波がリコナのふわふわの髪の毛を揺らし、鏡の中で、白い綿毛のようなものが一枚、はらりと床に落ちるのが見えた。
「う、動いた……。今、背中の翼が、確かに動いた……」
リコナは頭を抱え、その場にへたり込んだ。
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