いざ秘密の街へ
「ささこちらへ」
どこへ連れていかれるのかと思っていたが、そこは昨日も訪れた執務室だった。
「それではお約束通り、これよりお二人を市場へご案内いたします。とはいえ秘密の場という側面も持ち合わせております故、お連れするにあたり到着までこれで目を覆っていただきます」
そう言って会長は机の上に布を出した。
「目隠しをしている間は私の手の物が皆様を誘導いたしますので、彼らの指示に従っていただければ必ず安全に到着いたします」
目隠しをされるのは不安だが、ここで彼に逆らったところでなにもいいことはないと思い僕らは素直に従うことにし、目隠しを受け取った。
「それでは皆様私が手を引きますので、ついて来てください」
会長とは違う若い男性の声がしたので、僕はその人の方へと向けて手を伸ばす。そしてその男が僕の手を握ったことを確認すると、顔だけを後ろに向けチセに声をかけた。
「チセ、僕の腰に手を回して」
「はい、ご主人様」
僕の腰をチセの小さな手がしがみつくようにつかんだのを確認すると、目の前にいる若い男はゆっくりと歩き出した。
そこからしばらく階段を下りたり、なにか乗り物に乗ったり、降りたりなどを繰り返していると、だんだんと街の中とは違った空間に来た。道中の会話は禁止されていなかったので、時折チセと小声で話していたのだが、その時の会話の声が反響して聞こえることから、ここは街の地下かあるいは洞窟のような場所に来たということだけ理解できた。
「それでは到着いたしました。目隠しを取ります」
結び目がほどかれそれまで真っ黒だった視界が急にクリアになった。
「これは、すごいですね」
そこはこれまで見てきた町と同様に活気に満ちている、まさにもう一つの街と言っても過言ではなかった。しかし唯一の違いと言えば、僕らが出発してまだ数時間しか経っていないはずなのに、そこは夜の様に暗く、店の明かりや街灯のなまめかしい色の光によって視界が確保されていた。
「ここは地下でしょうか?」
「それはお答えできかねます」
「わかりました」
僕と同様に目隠しを外されたチセは新たな街の一面に目を輝かせていた。
「さて、私がお連れできるのはここまでです。おかえりの際にはこちらのカードを受付に提示してください」
そう言って僕は一枚のカードを受け取った。表面はギルドのマークがついているだけだが、裏にはバスの時刻表のようなものが書かれていた。
「ここから帰るには専用の移動手段を使わねばなりませんが、こちらに記載された時間のみの運航となっています。さらには同時に移動できる人数にも限りがありますので、お帰りの便に空席があるかどうか、受付にて確認したうえでまたここに戻ってきてください。そうすれば行きと同様に我々が、ギルドまでお送りいたします」
「わかりました。ありがとうございます」
「またこのカードは一度なくすと再発行はできません。あくまで皆様のことを信頼してこちらにご案内しておりますのでカードをなくすということは信頼を失うということと同義です。場合によっては今後ギルドへの立ち入りをお断りすることもありますので、ご注意ください」
「・・・はい」
つまりはこのカードをなくすとリースの母親を救助するための希望が潰えるということ。絶対になくさないようにしようと僕は心に決めた。
「それでは、こころゆくまでお楽しみください」
若い男性職員は説明を終えると、僕らの元からあっという間に姿を消した。残された僕は目の前の派手な明るさを放つ街の景色を目を丸くして見ることしかできなかった。




