謎の街での最初の買い物
「ご主人様、ここで呆けていても何も変わりません。まずは入りましょうか」
チセに肩をたたかれたことで、僕は正気に戻り踏み出すことができた。その町はたしかに活気にあふれているが、そこを歩く客は皆身なりがよく、札束を投げ捨てるように使っていた。その点僕は街で買った普通の服だし、チセは山を下りるときに持ってきた花柄のついた割烹着のような服装だ。だから当然この街の中ではかなり浮くし、周りの視線も痛い。
「ご主人様、どうやら我々はかなり目立っているようですね」
「そうだね」
「このままでは行動に支障が出るかと思われますが、どうしましょうか」
「そうだね」
服装を変えたいが、周りの人間みたいに高価そうな服を買っては何もしないまま資金が尽きそうな気がする。そうなるとどうするか。僕は答えの出ないままとりあえず足を進めていたところ、
「おい、そこのお兄ちゃん」
とある店の店員に声をかけられ、それにつられる形で足を止めた。
「ここは初めてか」
「ええ」
「そうだろうな、そんななりでここを歩く奴なんか、普通はいねぇからよ」
男は怪しげな笑みを浮かべながらも、口調だけはフレンドリーに僕らに語り掛けた。
「どうだいその目立つ格好どうにかしたいか」
「ええ、できることならですが、僕たちはそんなにお金は持っていませんよ」
「冗談よせよと言いたいところだが、まあそれでもかまわねぇよ。別に無駄に色付けて売りつけようなんて思っちゃいねぇよ」
「そうなんですが」
「まあできることなら高値で買ってほしいが、うちが扱う物は少し訳ありでよ。それでもよければ見ていくかい」
男に手招きされるまま僕らは商店街の一角ほどの広さの店内に案内された。中には大小さまざまな服が壁に打ち付けられたくぎやフックにぶら下げられる形で展示されていた。それ以外にも洗濯用の棒にひっかけられたものや、ガラスの中の小ケースもあった。
「見たところ古着屋かな」
「おお、お目が高いね。そうさうちは古着屋、持ち主がいない服を専門に扱う古着屋だ」
「持ち主がいないとはどういう意味でしょうか」
「おいおい、お嬢ちゃん詮索はなしにしてくれよ、これはあくまで善良なビジネスだからよ」
チセの問に男は答えをぼかして答えた。
「ですが商品の詳細が分からないまま」
「チセ」
僕が優しく声をかけると、チセはそれ以上の追及をやめた。きっとここにある服の持ち主はすでにこの世にいない。だが見たところは汚れなどはなさそうなので、しっかりと洗濯したうえでここに並べているのだろう。だがそのことをわざわざチセに説明する必要もない気がした。それはきっとチセが知らなくてもいい世界の話だ。
「よさそうなものがあったんだ。一緒に見てくれないかい」
「かしこまりました」
僕に背中を押されチセは店主の前から離れた。二人が会話をしている間、僕はこっそり店全体を見回していた。そしてとあるものを見つけていた。
「それで見てほしいものとはこれですか」
「うん、これなら目立たないんじゃない」
僕が見つけたのは、全身をすっぽり覆えそうなほどのサイズの一枚布で作られたローブだった。これなら着ている服をすべて隠せる。
普段の街中ならそれなりに目立ってしまうが、ここは素性を隠しながら買い物をしたいのか、はたまた護衛の装備を見せたくないのか、事情はきっと人それぞれだろうが、ローブを着こんでいる人はそれなりにいた。そしてそんな人達の中にこれを着れば溶け込めるだろう。
「これ試しに着てみてもいいですか」
「ああ、構わないぜ」
店主の許可を得たので、僕とチセはそれぞれサイズの合う物を着てみた。
「どうだい」
「サイズは問題ありません。それに動きにくさもありません」
「そっか、なら買っていこうか」
「待ってください。これなら例の件にも使えると思います。念のため人数分買っておいてもよいと思うのですが」
「そうだね、すいません」
「おう」
「これと似たようなローブはまだありますか」
「ああ、在庫なら奥にあるが、なんだ買ってくれるのかい」
「ええ」
僕は必要な枚数とサイズを伝えると、男は喜んでそろえてくれた。しかしはぎ取ったものだったゆえにサイズは同じでも色や素材に多少のばらつきがあった。とは言え贅沢は言えないので、丁寧に折りたたんだのち紐で一つにまとめてもらい僕がそれを背負う形で運ぶことになった。
「毎度あり、また来なよ」
「ええ、ご縁があれば」
なんて挨拶を交わしながら僕らは店を出た。




