初めてのギルド、わくわくがとまらない
よくよく考えてみればチセはこの街に入るのは初めてだった。世界を見て回りたいという目的があったのだから最初にこの街を案内してあげるべきだったかもしれない。とはいえ最初に案内していたらチセもリースの刃の餌食になっていた可能性があるので、これでよかった気もする。
「あ、あの不謹慎かもしれませんが、すこしワクワクしています」
「そ、そうだよね」
これはあれだ。田舎で暮らしていた子供が青年になって初めて都会に降りてきた時に感じるワクワクなんだろう。その証拠に先ほどからチセはずっとあたりをきょろきょろ見渡している。
「なにか気になるものはあるかい」
「正直全部気になります。しかしそれら一つ一つで足を止めていては目的地に着く前に日が暮れてしまいます」
「うっ、おっしゃる通りで」
たとえどんなことがあっても軸がブレないあたり流石はチセというべきだが、僕としてはもう少し知識欲に忠実になってもいいのではと思う。実際に昨晩はリースに対してナイフ術を教えてくれと志願したのだからその兆候自体はあるようには思う。
「帰るときにみんなの夕食も買わないといけないから、その時にすこし寄り道してみようか」
「はい!!」
僕の提案にチセは喜んでくれた。だがそのことよりも僕自身がこんなに人に気が使えるような性格だったことに驚いた。きっとこれもこっちの世界に来てみんなと旅をしたことによる影響だろう。少しずつではあるが、僕も変わってきているようだ。
「ご主人様、もしかしてあの建物がギルドですか」
僕からすればもうすっかり見慣れた建物だがチセにとってはやはり新鮮に映るようで、目の前の建物を恐る恐る指さしていた。
「うん、そうだよ。会長には僕が話をつけるから、チセは・・・そうだな中に小さなお店があるからそこで待ってて」
「このスタンガンを買ったところですね、わかりました」
僕が扉を押してギルドに入るとそこはいつも通りの光景が広がっていた。仕事を求めるものが大挙し、それを受付の人が捌くそんな当たり前の光景にすらチセは目を輝かせていた。
「ご主人様これはいったいどのような仕組みなのでしょうか」
「あそこに掲示板があるでしょ。そこにはこの辺り一帯から集められた仕事の依頼が貼ってある。そこから自分ができそうなものを取って受付に持っていく。そして受付で正式な契約がなされて仕事にありつく、といった感じ」
まだ二回しか依頼を受けたことがないし、そのうちの一回は会長直々の依頼なので、はっきりとしたことは言えないが。おそらくは合っているはずだ。今になって思い出したのだが、あのイノシシの依頼のきっかけになったのはチセが作った薬だった。
「そう言えばなんだけど、チセはすでにこの街じゃちょっとした有名人だよ」
「そうなのですか」
「うん、そうだよ。前にチセが作った薬があったでしょ。あれのおかげで多くの人が助かったんだって。だからその実力を見込んで依頼をしてきたんだ」
「なるほど、意図していないところでリースさんの手助けができていたということですね」
「リースだけじゃなくて、たくさんの人を助けたんだよ。だからこのことは誇っていいと思うよ」
「いいえ、医師として当然のことをしたまでです。それよりも」
「ああ、いいよ」
チセは先ほどから中を見て回りたいと視線で訴えかけているので、僕は彼女を解放してあげることにした。




