皮鎧のプレゼント
翌朝、僕はいつも通り目を覚ました。今日の午後僕は例の奴隷市に向かう。そう思うとなんだか爽やかな朝が途端に憂鬱なものになってくる。しかし朝食を食べると、それも幾分かましになる。
だがその朝食の席において気になることがあった。今日出かけるというのにチセの様子がおかしい。スプーン運びがやけにゆっくりだし時折動きが止まっている。
「どうしたのチセ、どこか痛むの」
「いえ、昨日少し」
「こいつがナイフを教えてくれって言った」
「ええっ!!」
突然のことに皆の食事の手が止まった。
「チセ、戦闘なら私にお任せください。それとも私では不安ですか?」
「いえ、そうではなく、ご主人様と出かけるにあたり自衛する術がないといけないと思いまして。ですがその」
「どうしたの」
「思っていた以上に運動能力が高くなかったらしく、その」
「大丈夫なの」
「ええ、一応湿布を貼って鎮痛薬を飲んで寝ましたので、午後には綺麗に回復しているはずです」
「そっかならよかった」
「チセ、痛いなのです?」
「にんにくつう~?」
「筋肉痛です。あとは打ち身でしょうか」
「ともかく大丈夫なんだよね」
「はい、問題ありません」
朝食が終わっても、チセの動作はフリーズしかけのパソコンみたいにかくかくしていた。とはいえチセのことだから何とかするのだろう。
とはいえ午後までやることがないのでどうしようかと思っているとヴァルフが声をかけてくれた
「ご主人様、少しよろしいでしょうか」
「何ヴァルフ」
「ぜひお渡ししたいものがありまして」
「え、なになに」
ヴァルフが僕に贈り物をしてくれるなんて初めてのことなので、必然的に期待が高まってしまう。これが万年ボッチだった男の性なのだが今はそれを憂うこともない。
「こちらです」
ヴァルフは拠点としている木の近くに連れて行った。そこには乾燥中の服や肉がかかっているのだが、その中に見覚えのないものがかかっていた。見たところ革製の洋服のようだがみんなの私物にあのようなものがあったという記憶はない。
「ねえこれってなあに」
「先の依頼で討伐した魔物の皮の一部を使った皮鎧です。と言っても本格的なものは私には作れませんので、簡単な上着くらいの物になりましたが」
木にかけられていたものを手に取ってみる。普通の服と比べてやや重たいが、それでも行動に支障をきたすようなものではなさそうだ。試しに拳で叩いてみるが厚い感触に阻まれて裏まで衝撃が届かない。
「肌着と上着との間に着こんでください。これを使えば剣や槍での攻撃などは防ぐことができると思います」
ヴァルフに手伝ってもらいながら試しに着てみる。普通の服よりもやはり重厚感があるが、それでも着心地も動きやすさも悪くないの一言に尽きる。何より服の裏にボディーアーマーを仕込んでいるなんて、ロマンあふれるじゃないか。
「ヴァルフ、ありがとう」
「いえ、私にできるのはこれくらいなので。本職の職人ならもう少しましなものが作れるのでしょうが」
「ううん、十分だよ」
「もったいないお言葉」
「チセの分もあるよね」
「ええ、もちろんです。彼女には後で話します。それよりも着心地はどうですか、調整が必要なところはありますか」
「いいや、大丈夫だよ。ありがとう。ところで縫い物できたんだ」
「故郷にいたころに祖母に教えてもらいました。しかし極めるよりも先に徴兵されてしまったのですが」
「そう・・・なんだ」
なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がするが、続きはヴァルフともう少し仲良くなったらもしかしたら聞けるかもしれない。
「さて、話はここまでにして、ご主人様も準備を進めてください。万が一忘れ物があった場合すぐに取りに戻れる場所ではないでしょうから」
「うん、わかった。とにかくありがとねヴァルフ」
「いえ」
ヴァルフに背を押され、僕は自身の準備に戻った。
それから数時間の時を経て、お昼ご飯もしっかりと食べて、僕とチセは準備を整えた。財布にボディーアーマー、それに各々が必要な物をすべて持って僕らは準備万端になった。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「行ってきます」




