知的好奇心と自衛の術
「ありがとうチセ」
「とは言いましたが、もしもの時はお願いしますねご主人様」
「うん、任せてよ」
とはいえ戦闘は全くできないので、いざとなったら逃げるしかないが、それでも神様からもらった身体能力のおかげでチセ一人くらいなら最悪抱えて走るくらいは出来そうだ。
「では、その市場にはいつ向かいますか」
「僕としては準備は出来ているけど、チセはどうかな」
「私も心だけは準備はできています。しかし」
「しかし?」
「非常時に備えいろいろと用意したく思いますので、半日時間をいただけませんか」
「わかったよ」
チセが必要だというのだから必ず役に立つものだと僕は信じている。だから余計なことは言わずただ彼女に任せてみることにした。
「それじゃあ、僕は一旦戻るよ。チセあまり遅くならないようにね」
「心得ております。医師が体を壊しては身も蓋もないですから」
僕が馬車の荷台から降りる前にチセは準備を始めた。僕はとりあえず邪魔になってはいけないと思い、そそくさと退散した。
「話はまとまりましたか、ご主人様」
「ヴァルフ。うん、チセ来てくれるって」
「それは大変心強いですね」
「まったくだよ。それにしてもやっぱりチセは・・・僕よりも肝が据わっている」
「ご主人様もたいがいだと思いますよ」
「そうでもないよ」
たわいもない会話をほどほどに挟みながら、寝るための支度を整えていく。食事を終えてからしばらくたっているので、満腹で元気いっぱいだった子供たちもすっかりお眠りになっていた。
「ご主人様~」
「眠いのです」
「はいはい、早く寝ようね」
「その前に歯磨きですよ」
「「ふぁ~い」」
ヴァルフはコチカとクイネを抱えて、水の入った桶の方へと歩いていった。残された僕は焚火の方へと向かい火が消えたことを確認した。
「さてと」
今日もそうだったが明日も忙しくなりそうだ。だから今日は早めに寝ることにした。
皆が寝静まってもリースは安眠することができずにいた。今日もまた遠くに街を眺めながら奪ったナイフを手の中で遊ばせていた。奴隷商人の話によると、準備は着実に進んでいるとのことだが、それでももどかしい気持ちは消えない。
「あの、リースさん」
声をかけられたリースが振り返ると、そこには彼女の怪我を治療した医師チセがいた。
「なんだ。経過観察ならもう終わったはずだろ」
「ええ、そうです。なので今日は別件です」
「なんだよ」
「今日ご主人様からこのようなものをもらいました」
チセはスタンガンを取り出すと、リースに見せた。
「これはどうやらこの先を敵に当てることでしびれさせることができるみたいなのですが」
「私で実験しようってか」
「いいえ。これは私の推測なのですが、この大きさそして長さ、リースさんがもっているナイフと同じくらいだと思っています」
実際チセはリースの治療の際に、チセは彼女の持ち物に触れていた。当然その中にはナイフもあった。
「だから簡単にでいいので、ナイフの扱いを教えてくださいませんか」
「はぁ、何言ってんだあんたは医者だろ、医者が人を傷つけてどうする」
「傷つけるのではありません。自身の身を守るために必要なのです。私はご主人様の足手まといにはなりたくありませんので」
「何言ってんだか、今でも十分役に立ってるだろうが」
一体あの商人のどこにそれだけの魅力があるのかまるでわからない。だがリースもここに来てからずっとナイフを使っていなかったので、鍛錬の相手が欲しかったところではあった
「いいぜ、だけど明日のあたしの飯、倍にしろ。それで手を打ってやる」
「わかりました」
「じゃあ、構えろ」
チセはスタンガンを構えた。




