連れていくかどうか
「なにかできないかと思いましたが、私ではひとまずは臭みを取って使えるようにするので手一杯でした」
「それでもすごいよチセ」
「いいえ、私の力ではありません。リースさんの力です」
「私は何も、ただ教えただけだ」
幼いころから医術の勉強を続けてきたチセにとって新しいことを学び覚える分にはそう難しくはないのだろう。
「ひとまずは、布団の代わりになるでしょうがゆくゆくはこれを使って服とかも作れるようになりたいですね」
「うん、楽しみにしてるよ。それでなんだけど、チセ君に話があるんだ。だから後で来てくれないか」
「はい、わかりました」
チセは作った布をコチカとクイネの二人に託すとそのまま僕の後に続いた。大事な話ではあるが、他の面々には聞かせられないので、馬車の荷台に移動し天幕を閉めた。
「えっと、ここまでしてする大事な話とは」
今馬車の荷台には僕とヴァルフ、そしてチセの三人だけが入っていた。
「今日ギルドの会長さんと報酬の件について話してきたんだ」
「はい、存じております」
「それでね、報奨金をもらったのと同時に、ギルドが保有する奴隷市場に入れるようになったんだ。だけども訳あってヴァルフたち獣人を連れていくことは出来ない。だけどもチセ君なら僕の従者としてあそこに潜入できるんだ。だからもし君さえよかったら僕と一緒に来てほしいんだ」
「・・・なるほど事情は分かりました」
僕だってこんなことをお願いしたいわけではない。それでも時間をかければかけるほど、リースの母親の生存確率は下がっていく。だからできることをすべてやりたい。そう思っていた。
「一応チセは戦えないから万が一のために武器も買ってきたんだ」
そう言って僕は買ってきたスタンガンを出した。チセはそれを手に取りあれこれ触りながら観察を続けた。だがやがて僕が何かを言うよりも先に仕組みを理解した。
「なるほど、これはたしかに強力そうですね。これならば私も戦力になれるかもしれません」
「とはいえチセ、私がいけない以上あなたの身の安全を保障できません。それにあなたは世界を知るためにあの山を下りた。だけどはっきり言ってこれは見るべきではない。最初に見たときご主人様ですら気分を悪くしていました。そのことも考慮したうえでよくよく考えてください」
「・・・」
「すぐにとは言わないよ。僕だって今日これからすぐにとはいかないからね。今日一日ゆっくりと考えてくれればいいからね」
「わかりました」
「それじゃあ、お昼は僕が作るからチセは皆とゆっくりしてて」
「はい」
僕とヴァルフは買ってきた非常食の一部を沸かしたお湯で解凍するとすぐさま温かいトマトスープができた。まさかこんな中世の世界に冷凍食品のようなものまであるとは、想定していなかったが、もしかするとこれくらいの技術はもともとあったのかもしれない。昨日からの一連の出来事で僕は外界人がこの世界に与える影響について思い知った。だからこれからは慎重に動かないといけないとも思う。
「ヴァルフ、味見してみて」
「はい、それではいただきます」
僕が差し出したスプーンをヴァルフはそのまま咥えた。
「これは!! 改良できる点はありますが、これ単体でも十分に食事として成立します」
「それはよかった。一応このクラッカーもつけてみようか」
「いいですね。それにつけて食べればまた変化があるかもしれません」
煮えあがったスープを皿に注ぎクラッカーを添えると、全員を鍋のもとへ呼び集めた。




