この世界には似つかわしくないスタンガン
その後何か買って行けという会長の意向をくみ取り、非常食用の缶詰を幾つか手に取っていた。これだけ買えばメンツをつぶすこともなくなるだろうと思い、お会計をしようと思っていたのだが、僕は一つの道具の前で立ち止まった。それは携帯電話に近しい形状であったが、先端に金属の出っ張りが二つ付いており、よく見ると、横にボタンが付いている。
「これは」
「お目が高い。それはつい最近仕入れた護身用の道具です」
「へぇ」
僕は試しにそれを手に取ってみた。
「外界人の方が作られた奇跡の道具で名を『スタンガン』というそうです」
「スタンガン!!」
確かドラマで使われているのを見たことがある。確かこの金属の間に電気が流れてそれで敵をしびれさせる護身用の道具。確かにこのファンタジー世界には似つかわしくない、近現代の道具とはいえ子供たちにもしものことがあったときに身を守るために役に立つだろう。
「これも買います。お金足りますか」
「もちろんです。これを10個買ってもまだ余裕があるくらいです。とは言え在庫は一つしかありませんが」
「ではあるだけもらいます」
「承知しました」
僕はスタンガンと非常食を包んでもらい、ギルドを後にした。
「ご主人様、それは一体」
「スタンガンって言ってね。ここのさきから電気・・・雷みたいなものを出して相手をしびれさせるんだ」
「ほお、それは興味深いですね」
「チセやリースの身を守るために役に立つかなって」
「確かにそうですね。ですが使い方を誤らないようにしないといけませんね」
「うん。でも役には立つと思うよ」
「それと干し肉も追加で買っておいたからしばらくは食料も大丈夫かな」
「それはあの子たちも喜びますね」
僕らの会話はひどく緩やかで、周りから見るとでまるで長年連れ添った者同士に見えるだろう。だが獣人と人間が会話をしているところを聞かれるわけにはいかないので、声を小さくしている。
「しかし、会話の全てを聞いていたわけではありませんが、どうやらこの街の奴隷市に入れるようですね」
「そうだけど、ヴァルフやリースを連れていくことができないんだ」
「どうしてですか?」
「あそこは売買用の奴隷以外獣人は立ち入り禁止なんだ。だから一度入ると最後、ヴァルフ達は出られなくなるんだ」
「・・・万が一売れ残れば・・・いえ考えるだけリスクばかりで危険ですね。そうなるとわたしたちが連れていけるのはチセのみになりますが」
「うん、一応僕の従者としてチセを連れていくことは出来るけど、正直彼女にそんな世界を見せていいものか」
確実に良くない。だがチセの冷静な判断力と医療技術はどこに行っても頼りになる。それにかなり大人びているので周囲に溶け込めるだろう。とは言え危険なことには変わりないし、会長は夜を楽しくするものの置いてあると言っていた。確実にそっち系なのでそれをチセに見せるわけにはいかない。
「一応僕一人で行くつもりだよ。でも正直チセの協力も欲しいところではある。だから一応チセには全部説明してもし許してくれるなら、ついて来てもらおうと思う・・・」
「そうですか」
「だからこそ、今日これが見つかってよかったよ」
「スタンガンですね」
「威力は強力だけど、それに加えて使い方も簡単だからね。きっと一時間練習すればチセでも使えるようになると思うよ」
「なるほど、では帰ったら早速話してみましょう」
町の検問をいつも通りすんなりと抜け、拠点に帰ってみると、チセたちは縫物をしていた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ただいまチセ、皆の様子はどうだった」
「いたって変わりなく平和でしたよ。そちらはどうですか」
「無事報酬もらってきたよ。それに非常食もいっぱい買ってきたよ」
「それはそれはありがとうございます。こちらは昨日のイノシシの皮を使って何か作れないかと模索しておりました」
そう言ってチセはイノシシの皮を加工したものを広げた。




