奴隷の呼び方と討伐方法
「あの、ツレヒト様」
「何ですか」
「その、差し出がましいようですが、あの奴隷のことを名前で呼んでいるのですか」
「ああ」
そう言えば会長の前でヴァルフの名前を呼んだのは初めてだったような気がする。僕らにとっては余りにも自然なことすぎて疑問に思われたことに逆に驚いてしまった。
「あんな獣風情、適当に呼べばいいのです」
彼の発言は当然差別的ではあるが、これがこの世界での常識なんだろう。
「あいにくですが、僕には名前を付けるセンスがないですし、考えるのも面倒くさいので、彼女に直接聞きました。なので呼び方についてはそれ以上でもそれ以下でもありません」
「そうでしたか、ですがあまり心を許してはいけませんよ。奴らは何を考えているのかわかりませんからな」
「はい、肝に銘じておきます」
と口では言っているが、実際は今ヴァルフが何を考えているかはかなりわかる。というかはっきりと不快の色が顔に出ている。
会長に連れられギルドの中を歩き、やがて僕らは小さな部屋に案内された。
「ささ、ツレヒト様おかけください」
会長から促されたので、僕はソファに腰かける。ヴァルフにも一応勧めたのだが、ヴァルフは僕の立場のことを考えて断った。
「さあさあ、それではさっそく拝見させていただきますかな」
「ええ、もちろんです」
今度こそヴァルフはイノシシの牙を机に広げると、会長はどこからか虫眼鏡を取り出し、牙を観察し始めた。てっきり傷がついていたらダメみたいなことになるかと思ったが、会長はそんな様子はなく、満面の笑みで僕らに向き直った。
「これはまさしく例の大イノシシの牙で間違いございません。いや~しかし依頼しておいてこのようなことを言うのは大変失礼だとは思いますが、これほど早く討伐なさるとは思ってもいませんでした」
「たまたまですよ。会長からお借りした品々も大いに役に立ちました」
「それはよかったです。とはいえいったいどのようにして討伐を」
会長いわく一応ギルドの方でも外部から傭兵を募ったり会長自身も私兵を差し向けたりしたが、失敗に終わったらしい。
「僕の所有する奴隷の中に狩猟を生業としていた者がいたのです。もともと僕らは旅をしながら商売を行ってきましたので、食料も現地調達が基本になりますので、狩自体も慣れていました」
自分でもびっくりするくらいするすると嘘が付けるようになっていた。だが会長は僕の話を真に受けてくれたようだが、内容が内容だけに表情は明るくなかった。
「・・・つまりは奴隷の知識によってあれを討伐したと」
「はい」
「・・・正直ツレヒト様の功績にケチをつけるわけではございませんが、状況が状況だけに何とも言い難い気持ちでございます」
「まあ、ともかく街の危機は去ったのです。今はそのことだけに目を向けてはいただけないでしょうか」
会長は少し悩んだ様子だったが、最終的にこれ以上追及しても無駄だと思ってくれたのか、あきらめたようにため息をついた。
「わかりました。ではつまらない話はこの辺りで終わりにして、報酬の話をしましょうか」
とうとう僕らが聞きたかった話題が出てきたことで、僕の表情は一気に明るくなった。
「まずは、討伐成功報酬として事前に契約した分をこの場でお支払いいたします。それに加えて買い取ってほしい素材があれば、いつでもお持ちよりください。ただ時間がたてば傷んでしまうこともあり得ますので、できるだけお早めにお願いします」
「わかりました。今日はこの牙しか持ってきていませんが。また後日残りの素材を持ってきます」
「よろしくお願いいたします」
「それで、ここから先は内密な話になるのですが」
会長は僕ではなくヴァルフの方に視線を向けた。どうやら彼女には聞かせたくない話のようだ。
「ヴァルフ、外で待ってて」
「かしこまりました」
ヴァルフが部屋を出たことで、会長は怪しい笑顔で語りだした。




