ヴァルフの誘惑、彼女の願い
「見たところツレヒト様は大変お若い、それにおそらくはこちら世界の住人ではありませんね」
「どうしてそれを」
まさかこちらに来て早々に異世界人であることが露見するとは思っていなかった。だがそれにしてもいったいどこにそんな要素があったのか見当がつかない
「やはりそうでしたか。決して確信があったわけではありませんが、今それが確信に変わりました」
「つっ」
どうやら僕は誘導尋問に引っかかってしまったらしい。
「何十年前に人間の王国が開発した技術、外界召喚。こちらではない別の世界とのパスをつなぎその住人を呼び寄せる術。私も話に聞いただけで実際に本物を見るのは初めてでした」
「えっと、どうして僕がそうだと」
「あなた様奴隷である我々を見ても、一切嫌悪することなく、対等に言葉を交わしただけでなく、肉類まで提供してくださった。それはこの世界では法には触れないものの、奴隷商人の間からすれば決してあり得ない行為なのです。そのあまりにも大きな価値観の違い。それこそが最も大きな要因です。一応そのほかにも多数ありますが、それらはすべて些細な事でしかありません」
「そっか・・・だからあれを見せた。あの光景を見れば奴隷とは言え獣人の命をないがしろにするこの世界のやり方に嫌悪感を示すと」
実際そうだった。彼女の思う通りに行動し、描いたシナリオ通りの感情を抱いている。だがしかしその種が割れてしまった以上、今僕は目の前のヴァルフさんを本当に信用してよいのかわからなくなっていた。
「それで、最終的には何をしようとしてたんですか」
「はい、それは」
そこまで言うとヴァルフさんは一気に距離を詰めて、僕の隣に座った。
「あの二人を故郷に送り届けてほしいのです」
彼女のいう二人とは荷台でのんきに寝息を上げている子供たちのことだろう。確か名前は犬耳の方がクイネで猫耳の方がコチカだった気がする。二人とも10代前半くらいの子供なので、とてもではないが、奴隷としての労働を強いるのはためらわれる。しかしきっと彼女たちの前の主人ももしかするともっと前の主人もまた、僕とは違い彼女たちをこき使っていたのだろう。
「今更それを拒むつもりはありません。しかしもしそれがかなったとしてヴァルフさん、あなたはどうするのですか」
「決まっています。私はあなた様に一生お仕えします」
料理のために起こしたままの焚火の炎がわずかに揺れる、その刹那の間に僕は地べたに押し倒されていた。
「望むなら、いかようにもこの体をお使いくださいませ」
「待ってください、これは」
ヴァルフさんは器用に足を絡ませて僕の身体を地面に固定しつつも、ゆっくりと上着を脱いだ。
「いいえ、これは私の意思です。ここであなた様に気に入っていただければ私もあの子たちもきっと」
「それはどうでしょうね」
おそらく今日一日だけでも、僕がほかの奴隷商人たちよりもはるかに良心的であることを彼女は理解した。だから僕の心を離れられないように縛り付けることで他の奴隷たちと比べてより安定した生存環境を手に入れようとしている。そのやり方自体は理解できる。だから僕は好きではない。
「やめてください。そんなことあの子たちが望むと思いますか」
「えっ」
今日一日あの二人の子供たちはずっとヴァルフさんのそばを離れなかった。僕が話しかければ一応言葉を返してくれるが、ヴァルフさんが話しかけたときと比べると明らかに態度が違う。それだけあの二人は彼女のことを信頼している。というかもはや親代わりと言っても過言ではない。
「あなたはあの二人の保護者だ、そんなあなたが好きでもない人と、無理やりその・・・こんなことをするなんて、あの二人は決して喜びはしない」
あまり人間関係に構築にうまくいっていない僕でもなんとなくわかる。彼女はたしかに魅力的だがこのまま流されるままに体を重ねてしまえば、あの二人は決して心を開いてくれなくなる。
「あの二人ならもう夢の中です。子供ですからもう朝まで起きませんよ」
「それでもです」
僕は手のひらに力を籠めヴァルフさんの肩を押し返した。
「まさかこれほどの力が」
先ほどまで地面に倒れた僕に覆いかぶさる形だったのに、また二人して地面に座っている体制へと一押しで戻っていた。
「僕はあなたたちを奴隷として扱うつもりは最初からありません。そんなの僕が望んでいる生き方じゃない」
ライトノベルの中にいた英雄の中にも確かに奴隷を使役していた者はたしかにいたが、誰一人として無理な隷属を強いるものはいなかった。彼らは隣に並び立ち強大な脅威に立ち向かい、きずなを深めて言っていた。僕に彼らのような強大な力はないけれど、彼らのような志を持つことくらいはきっとできる。
「だからこんなことはやめてください」
僕は強く言い切った。




