この世界で僕がやりたいこと
僕たちの間に気まずい沈黙が流れる。ヴァルフさんもきっと生き抜くために必死であんなことをしたのだろうが、いざ終わってみると途端に気恥ずかしさがやってきてようで。今は先ほど脱いだ上着を強くつかみ、焚火の隅で体を小さくしている。
「あなた様は、なにも望まれないのですね」
「・・・望まないというか、何がしたいのか、何が欲しいのか正直わかりません」
最初は夢にまで見た異世界転生で、なおかつしょっぱなからゆかいな仲間も手に入った。あとはただきずなを深めていけば、それなりに楽しい異世界ライフを過ごせると思っていた。だが僕の認識が甘かった。どんな場所にも綺麗な面とそうでない面が存在している。そのから目を背けていた。
「私たちは・・・いえ私はこのあと捨てられるですね」
「どうして」
「当然です。あなたの善意に付け込みあまつさえ同族の命をさえも己のために利用した。そして主人であるあなた様をだまそうとして失敗した・・・正直それなりに自信はあったんですよ。何度かうまくいってましたし」
そういうヴァルフさんの声はわかりやすいほどに震えていた。彼女だって自ら喜んでこんなことをしていたわけではない。生きるためにいやいややっていたのだ。
「これで私の人生もおしまいですね」
僕は再びはるか向こうに見える街を見つめる。きっとあの中の住人はただ気に入らないというだけで誰かの命を手放し、面白半分で購入するのだろう。そう考えるとやはりこの世界は間違っている。そうだとしても今の僕に何ができる。本の中の英雄たちのような力もなく、志もない。でもだからと言って何もかもを諦めたくはなかった。そうして今言えば、同じ人生を繰り返すだけだ。
「いいえ。いいえ、まだヴァルフさんの人生は終わりません。終わらせません」
「そんな」
「確かにいろいろありましたけど、僕はあなたを恨むつもりはありません。利用されることは慣れっこですから」
「そんなでも私は」
「いいんです。それに僕のやりたいことはヴァルフさんのおかげで今決まりましたから」
「いったい何でしょうか」
「クイネ・・・ちゃんとコチカちゃんを故郷に送り届けます。きっと彼女たちの両親も心配してるだろうから、そしてヴァルフさん、あなたのことも必ず家に帰して見せます」
そうこれは僕にとって一切メリットのない旅、ただの自己満足の偽善。ただそれでも生まれて初めて思った気持ち。誰かのために頑張ってみたいそんな儚い願い。これはその願いの果てがどんなものなのか、それを確かめる旅。そして今目の前にいるヴァルフさんこそが旅の仲間第一号なのだ。
「そんな、どうして・・・いえそれは無粋ですね。あなた様はきっと」
「何か言いました」
「いえなんでもありません」
あの世界でも僕は結局何物にもなれなかった。それは決して名を後世に残せなかったという話ではなく僕は自分自身の人生を歩むことができなかった。そのやりなおしをこの世界で果たしたい。輝く夜空の元小さな焚火の側で僕は僕に誓った。
「ツレヒト様・・・これまでの数々の無礼をお許しください」
「いいですよ今更」
「このヴァルフ・ツァリ。ただいまよりあなた様の配下としてお仕えさせていただきます」
「そんな仰々しいのはなしにしませんか、僕はただの一般人ですから」
「ですが」
「いいですか、僕たちは旅の仲間になるんですから、もっとこう・・・楽な感じで肩の力を抜いて会話しませんか」
正直このままではなんだかヴァルフさんに服従を強いているみたいで居心地が悪いのだ。だからせめて軍隊チックな言い回しだけでもなんとかならないものかと思っていた
「ならご主人様も、敬語は禁止でお願いします」
「えっ、いやその~」
「敬語禁止で」
結局ヴァルフさんに押し切られてしまった。




