彼女がこれを見せた意味
「ぐぼっ、そ、が」
「わかりました」
喉がつぶれているせいでもはや言葉ではなく、血が流れ出る音にわずかな緩急をつけて無理やり発している。だがそれでも僕にはその言葉にならない言葉の意味が分かった。
僕は彼女より先に進むと、爆発の反動で吹き飛んだ、ロケットを拾った。もはや蓋は完全に外れ、中の写真は半分ほど焼けてしまっているが、それでも手渡さなくてはならなかった。
「どうぞ」
僕がロケットを彼女の目の前に置くと、すぐさま手を伸ばしてそれを握りしめた。そこからさらに何か言っているようだったが、それを聞き取ることはやはりできなかった。だがそれでもなにをいいたかったのか、おおよそ察しがついた。
きっとあの写真に写っていたのは、この獣人の知り合いだろう。彼女が逃走用の馬を要求したのは、この場から逃げることもそうだが、最終的には彼女の元へ帰りたかっただけなのかもしれない。そしてその願いはかなわないものになった。
「ち、手こずらせやがって。それに競売も台無しだ」
「まったくこんな小汚い生き物のせいで商売上がったりとは」
「ほかのやつがこうならないように、こいつの遺体を見世物にしよう」
「そうだ、それがいい。あははは」
そんな彼女の思いなど、まるでお構いなしな様子で、市場の運営者たちは散らかった会場の後始末にかかっていた。あの獣人の死体も手袋とエプロンをつけた係員によって運び出された。そして僕は迷惑料として、馬車と付属品の代金を返してもらい。僕は会場を後にした。
「ご主人様、ご無事でしたか」
「うん・・・なんとかね」
「・・・」
「とりあえず、行こうか・・・あまりここにいたくない」
「・・・わかりました。二人に伝えます」
ヴァルフさんはなにもきかないでくれた。きっと今の僕は自分が思う以上にひどい顔をしているはずだ。それを見て察してくれたのだろう。
その後ヴァルフさんによって呼ばれた二人を荷台に乗せ、僕は馬車を走らせた。途中さまざまな建物があったもののどの影にも奴隷が見え隠れしており、そのたびは僕は目をそらして馬車の速度を上げた
「ご主人様・・・」
「ヴァルフさん・・・僕は」
「これが奴隷の現状です、どのような扱いを受けたとしても、奴隷に堕ちたが最後、あのような生活を強いられるのです。それでも人間である奴隷商人様の所有物とならなければ生きていけない。これがご主人様の質問に対する答えです」
「・・・そういうことだったんですね」
「はい」
彼女に言いたいことは山のようにある、だが今はそれをするよりも先にこの偽善にまみれた町から一秒でも早く抜け出したかった。
結局町から抜け出すころには日が落ちかけていた。なので今晩は最初の平原で野宿をする羽目になった。街を出てもなお、下を向くことしかできない僕の代わりに、ヴァルフさんが最後の力を振り絞って買い込んでいた食材の一部を使い、簡易的なクリームスープを作ってくれた。何も知らないクイネとコチカの二人はおなか一杯になるまで、食事を楽しんだのちさっさと眠ってしまった。
だが僕はどうにも寝付くことができず、はるか遠くのかなたにわずかに見える街を囲む壁を見ていた。
「眠れないのですか、ご主人様」
「あんなもの見させられたからね」
「気が付いておいででしたか」
「いや、気が付いたのはついさっきですね」
僕はつい先ほどになってずっと気にしないようにしていたこと、そしてそれが確信に変わったことについて、ゆっくりと彼女に話した。
「ヴァルフさん・・・あの奴隷市をわざと僕に見せましたね」
「はい・・・その通りです」
彼女は嘘偽りなく答えた。




