最高の朝と贖罪と朝食
僕はゆっくりと瞳を開いた。確か昨日は眠れなかったので、リースと話をして・・・そこまでは覚えている。しかし、今自分の全身で感じている感触は周りにあるはずの雑草でもなく、ましてや背を支えていた大木でもない。それよりもはるかに柔らかく温かい、こちらの世界に来てからこんなに寝心地のよい寝具は初めてだ。今度あの町に行って報酬をもらった際には、同じものを買っておこう。それでみんなの睡眠の質も大きく向上するはずだ。でも今は
「もう少しだけ、寝てたい」
「承知いたしました。ご主人様」
まさかとは思ったが、寝具がしゃべった。そのことに驚き思わず飛び起きようとしたが、強力な力によって押さえつけられてしまった。とは言え締め付ける意図はないようで、その拘束は比較的緩いものだった。
「暴れないでください、ご主人様」
よく聞けば聞き覚えのある声だ。そしてその声を聞いているとなんだか昨日の記憶が戻ってくる。そう言えば確かリースと話をして、何やら謎の声を聞いて、それでなんだか力があふれて、その後に
「はっ」
「気が付かれましたか、ご主人様」
「やあヴァルフおはよう」
「おはようございます」
そう力を暴走させた僕はヴァルフのおかげで何とかそれを抑えて、それでそのまま彼女の腕の中で・・・そう僕はヴァルフに抱きしめられる形で眠りについた。だから今僕の身体にあたっているのはヴァルフの身体の感触だった。
「突然のこととはいえ、まさかそこまで気に入ってもらえるとは」
「あ、あの昨日の件は僕が悪かったので、離していただけないでしょうか」
僕の呼びかけにヴァルフは怪しい笑みで返した。正直普通の女の子なら恥ずかしがって『わわわ、ごめんなさい』と言ってくる状況なのだが、彼女はどうやら通常の女子よりも度胸があるらしい。そういえば僕と出会って最初の夜の時に押し倒してエッチなことをしようとしていたのだから、それに比べればたやすいことなのかもしれない。
「とりあえず、皆に昨日のことを話さないといけないからやっぱり離してほしいかな」
「・・・それもそうですね・・・わかりました」
なぜだかやや不満気味ではあるもののヴァルフは拘束を解いてくれた。その足ですぐに馬車に向かうと僕ら以外の皆はすでに起床しており、せっせと朝食の支度を整えていた。
「おはよう」
「おはようなのです」
「おっは~」
「おはようございます。ご主人様」
「おう」
昨日あれだけのことがあったのに皆平然としていた。チセとリースは事情を知っているはずだが、コチカとクイネの二人にはまだ何も説明していないらしい。それはきっと僕には説明責任があることを理解し、それを尊重してくれているからだろう。
「みんな、ちょっといいかな。食べながらでいいから聞いてほしいことがある」
僕が切り出すとリースとチセは食事の手を止めたが、コチカとクイネは口に物を含みながら、なんですと聞いてきた。
「昨日、僕の隷属魔法が暴走して、苦しい思いをしたと思う。そのことについて謝りたいんだ」
コチカとクイネはしょんぼりと耳を下げた。やはり思い当たる節があったのだろう。
「確かに、ちょっと怖い夢見たのです。あれはご主人様のせいなのです」
「ああ、そうだ」
「つらみ~だった~」
「悪かったと思ってます。どうしようもなかったこととはいえ一歩間違えれば大惨事になっていたかもしれない」
そうだ。もしあのまま隷属魔法を使用し続けていれば、まだ幼いコチカとクイネの二人を戦場に連れて行っていたのかもしれない。結果的にそうならなかったが、その可能性が出た時点で僕はこの子たちの保護者失格だ。
「・・・よくわからないけど、クイネは問題ないのです」
「コチカも~」
「でも、下手をしたら二人とも大変な目に」
「ご飯がおいしい。それでいいのです」
「みんなげんき~」
確かに、一応誰も怪我していない。だが本当にそれでいいのだろうか。
「いいのではないですか」
僕の葛藤に口をはさんだのは、熱々の朝食を持ったヴァルフだった。




