贖罪と抱き枕の刑
「なにもできない、などということはございませんよ。ツレヒト様」
「ヴァルフ」
「元の世界でツレヒト様に何があったのか私にはわかりません。ですがここでのツレヒト様は素晴らしい方です」
「でも、でも」
「別にいいではありませんか、何か特別なことをできないといけないんですか、それを言ってしまってはコチカとクイネの立場がないではありませんか?」
「二人はまだ子供だから、仕方ないよ」
「それでもです。何か特別なことができなくてもいいのです。あなた様はいつも私たちのために動いてくださっている。私たちの願いを尊重し、それを叶えるために頑張っておられる。そして今も、かつてはあなたの財布を盗もうとしたリースのために命がけで動いている、そんなことツレヒト様以外でできる人などいませんよ」
何を言ってもヴァルフは僕のことを肯定してくれる。だが彼女だってただ従順なだけではない。コチカとクイネの保護者代行としてダメなことはしっかりとダメと言うし、危険なことに二人を巻き込まないようにいつも配慮している。今の彼女はこうして分別なく駄々をこねている僕よりもはるかに大人なのだ。
「私はあなたのその高貴な志に惹かれたので、あなたに仕えているのです。だれよりも慈悲深く、そして誰よりも勇敢に歩んでいくあなただからこそ、ついていきたいと思ったのです。だからきっとあなたは嫌かもしれませんが、あえて言います。私は今のあなたが大好きです」
全身からあふれていた力が抜けていく、いつしかあの謎の声も聞こえなくなっていた。ツレヒトが抵抗する力を抜くとヴァルフもまた彼を抑え込むことをやめ、彼の手を取って、体を起こした。
「・・・ごめんなさい」
「私はいいですが、チセやあの子たちにはしっかりと謝っておいてくださいね」
「わかったよ」
ヴァルフは優しい笑顔を僕に見せてくれた、あれだけのことをしたにも拘わらず、ヴァルフは何も言わなかった。
「・・・ヴァルフ」
「わかっています。ご主人様はただ己の力に呑まれただけのことです。それよりもまた無事な姿を見ることができて一安心しました」
彼女の言葉一つ一つが僕の胸を打つ、許されてはいけないのに許されてしまっていることへの罪悪感が心に満ちていく。
「ヴァルフせめて僕を叱ってくれ、力に溺れて大切な皆のことを傷つけたんだ。このまま何もなしだと、僕は自分を許せない」
そう告げると、ヴァルフはややあきれたような、そして困ったような顔をした。
「ならば、はい、ご主人様」
ヴァルフは両手を横に広げた、きっとそれはここに来いと言うことなのだろう。僕はヴァルフからの無言の指示に従い彼女のもとへと体を近づける。次の瞬間僕はヴァルフの強力な力によって抱きしめられていた。
「何もできないなんて、悲しいことを言わないでください。私はあなたに特別なことなど求めていないのです。あなたはあなたのままでいいのです。たとえどれだけ弱くても、みっともなくても、世界がなんと言おうとも、私はありのままのツレヒト様をお慕いしております。だからあなた様が道に迷うことがあれば、どうかわたしを頼ってください。あなたがいれば私は何でもできる」
ヴァルフはただの獣人だった。どこにでもいる狼人族の女の子だった。 でも今は違う。こんな自分でも誰かのためになれる。誰かに隷属するのではなく、自分の意思で何かができる。そしてそんな自分の目標となる人がいる。それだけでヴァルフはいつも胸がいっぱいになっていた。
「ご主人様、今日は少々疲れましたね」
「そうだね」
「私も、その薬が効いてきて、眠たくなってきました。今日はこのまま」
「ちょ、ちょっと待ってヴァルフこのまま寝ちゃうと僕は」
「ヴァルフさん、コチカちゃんとクイネちゃんのことはお任せください」
「ありがとうございますチセ。それではお願いします」
「ちょ、ちょっと待ってこのまま寝られたら僕は」
「先ほどの罰です。甘んじて受け入れてください」
その言葉を最後にヴァルフはゆっくりと瞳を閉じ眠りについてしまった。そんな彼女を振り払う力が残っていない僕は、おとなしく彼女の抱き枕となる運命を受け入れたのだった。
「私はどうすればいいんだよこれ」
リースはひとり呟いた。




