イノシシの解体と食する支度
その後はすでに解体済みの部位だけに対し必要な処置を施して持ち帰るとともに、近くの川で体を洗った。コチカとクイネの二人は全身返り血まみれでかなり臭かったので、入念に洗ったのちチセが持っていた香草でにおいを消した。残された死体は土に還るか、他の獣の餌になるだろう。だからせめてもの礼にと僕は帰り際に改めてイノシシの元に立ち寄り手を合わせた。
「ご主人様~なにしてるのですか?」
「おてて合わせる?」
「これはね。死んでしまったイノシシが無事天国に行けますようにって祈っているんだ」
「天国?」
「天国は・・・素敵なところなんだよ。多分」
「クイネも行きた~い」
「残念だけど、天国は死んでから行くところだから。今のクイネでは行けないよ」
「そっか~」
きっとこの世界では僕のやることなすことすべてが異質に見えるのだろうが、それでも僕は正しいと思ったことをしたい。
「では、私たちも祈りましょうか」
僕に習ってチセも手を合わせる。その様子を見てコチカとクイネの二人もまたまねして手を合わせる。そしてそんな僕らの様子をリースは遠目から見ていた。がしかしやがて僕らの横に並んだ。
「変わった風習だな」
「そうかな」
「そうだろ、だって食事の時も手合わせてたじゃねぇか」
「そうだね。まあでも命をいただくって意味もあるから大きく外れてるとは言えないと思うけど」
「そうか、まあどうでもいいけど」
リースは胸の前でこぶしを握り、瞳を閉じた。それから僕には判別不能な言葉をつぶやくと、再び目を開いた。
「なんだよ」
「いや、なんでも」
きっと彼女の家に伝わる祈りか何かなのだろうと思い。僕は邪魔することなく見守っていたつもりだったが、どうやらその視線もまた気になったらしい。なのでひとしきりリースには謝っておき、その後荷物を持って僕らは狩場を去った。
「お肉♪お肉♪」
「に~くにくにくにっくにく」
クイネの歌は食欲丸出しだが、コチカの歌はどこかで聞いたことがあるようなメロディーラインだったので、もしやとは思ったがそんなわけはないとすぐさま、思考を切り替えた。きっと帰るころにはヴァルフも目を覚ましているはずだ。今日は頑張ったみんなのためにおなか一杯になるまで食べてもらわなければならない。
「ただ今なのです」
「おかえり~」
「クイネも帰ってきた側でしょ。ただいま」
「皆さまおかえりなさい。すいません先に失礼しておりました」
たしかチセには伝えていたはずだが、コチカとクイネの二人にはヴァルフが先に戻っていたことは伝わっていなかったが、二人は二人で肉のことで頭がいっぱいになっていたし。そんな僕も二人のペースに巻き込まれたせいで忘れていた。
「お姉ちゃん、怪我したのです?」
「たいしたことはありません。もう大丈夫です」
「よかった~」
「ところで食欲はありそう?」
「肉ですね。ぜひいただきます」
「ああ、うん」
思いのほか食いつきがよかったので、驚くと同時に少しだけ引いてしまった。とは言え彼女は今日の功労者なので、人一倍肉を食う権利がある。
「よし、それじゃあ早いところ焼いてしまおうか」
「わ~い、なのです」
「わは~い」
「ご主人様、こちら香辛料です」
「ありがとうチセ」
牛や豚と違い、イノシシはどうしても獣臭さが気になるところなので、事前に入念な下処理をしていたがそこに加えてさらにチセがもっていたスパイスをふりかけフライパンに乗せ焚火で焼く。あたり一帯に響き渡る香りと音に、全員の視線がくぎ付けになった。




