おはようとイノシシ解体
なんだか心地よい揺れでヴァルフは目を覚ました。記憶が正しければ確かイノシシを仕留めてそれで、飛ばされて草原に落ちて、それから・・・ゆっくりと目を開くと、そこには前方の景色と見覚えのある黒髪があった。
「おはよう、ヴァルフ」
「おはようございます・・・って、ご主人様」
意識がはっきりとしたことでヴァルフはようやく自らが置かれた状況を理解した。
「いけませんご主人様、私は歩けます」
「それでもだよ。まだ起きてすぐなんだから安静にしてて」
正直チセに運んでと言われたときは、できるかどうか不安だったが、そこは神様のギフトのおかげで何とかなっていた。しかしヴァルフの心に罪悪感を残さないようにすることは、自身でどうにかするしかなさそうだ。
「・・・申し訳ございません」
「いいよ、だってヴァルフは今日のMVPじゃないか。だからおとなしく背負われていてくれ」
「エム、なんですか」
「一番の功労者ってこと」
「そんな・・・」
「正直ヴァルフが倒れていた時は、かなり焦ったけど、無事でよかったよ」
「・・・」
これまでずっとただ目で見てきただけなのだが、ツレヒトの背中は思いのほかしっかりとしていて、自身が落ちる気配などみじんも感じていない。
「ご主人様」
「なんだい」
「私たちは勝ったのですね」
「うん、皆頑張ったよ」
「では、今夜はお肉祭りですね」
「そうだね」
どうやら僕が思っている以上にヴァルフは元気なようで、もはや背負う必要があるのかわからなくなってきた。だがそんなことを考える暇もなく、僕らは馬車についた。ひとまずはヴァルフを荷台に乗せ、濡らしたタオルを額に当て、身体にシーツをかけた。
「それじゃあ、しばらくここで休んでて」
「わかりました。ではお言葉に甘えて・・・」
ヴァルフはそう言い終わるとすぐさま、瞳を閉じ、寝息を立てた。どうやら相当体力を消耗しているようで、そんな中無理して起きたのだった。
「よし、それじゃあみんなの元に戻るか」
僕は大急ぎで、元居た場所に戻った。
「いいぞ、そこだそこに刃を入れるんだ」
僕が戻ってくると、先ほど仕留めた大イノシシをリースの指導の下、コチカとクイネの二人が解体していた。
「ええ、ちょちょっと、大丈夫なの」
僕が目を丸くしていると、チセがとぼとぼとやってきた。
「一応止めたのですが、二人がどうしてもあのイノシシの肉を食べたいと聞かなくて、さらにはリースさんが二人を焚きつけてしまって」
今の説明で完全に状況を理解したが、それでも落ちて怪我しないだろうかという不安は消えない
「あまり血を浴びてしまっては、感染症などのリスクがあるのでやめたいのですが、私ではどうしようもなく」
まあ確かに強引に止めようにも、チセのパワーではコチカとクイネには敵わないから仕方ない。見たところ僕が去ってからすぐに始めたようで、すでにある程度の量の肉が取れていた。確かに取れれば取れるだけありがたいのだが、チセの言う通りこれ以上続けさせるのもどうかと思う。幸いまだ依頼達成の証明に必要な牙は無事だったようだ。なのでとりあえずはそれをはがしてから、あとのことを考えることにした。
「リース、ちょっといいかな」
「なんだ」
「牙を取りたいんだけど、やり方を知っているかい?」
「当たり前だ」
僕はリースに教えてもらいながら、丁寧に牙を外した。




