獲物がかかった
リースに先導され、ヴァルフは森を駆けていた。事前にリースが偵察に出ており、獲物の大まかな位置は把握しており、今は二人してそちらに向かっている最中であった。話によるとリースの村は森での狩りによって食卓を成り立たせるとともに生計を立てているため、リースも物心ついた時には森の中で遊んでいたという。そのためヴァルフと比べてすいすいと森の中を移動していく。
「ついたぞ、やつはここだ」
リースが指さす先に確かに例のイノシシがいた。今はまだゆったりとあたりを散策しているようで、その巨体故にこちらに気が付く気配はみじんもない。
「私の仕事はここまでだ。あとは任せる」
「ええ、ここまでありがとうございます」
リースの足ではイノシシ相手に陽動を務めることは不可能なので、リースは早々に離脱し、崖上の面々との合流を急いだ。
「さてと」
ヴァルフはツレヒトから託された槍を背から外すと巻き付けていた布をほどいた。こうしてこの何でもない槍を握るたびに昨日の誓いを思い出しては頬が緩んでしまう。
「この槍に誓ってあの方に吉報を持って行かねばなりませんね」
ヴァルフは身を隠すのをやめ、イノシシの前に飛び出した。そして渾身の力で飛びあがると、敵の鼻に向けて突きを放った。
「さあ、私はここです、かかってきなさい」
言葉は通じていないものの目の前のイノシシはたしかに怒り狂いヴァルフに向けて突進を始めた。そんな相手をヴァルフは木々を利用しのらりくらりと躱しながら、森の外へと誘導していく。そんなヴァルフにつられてイノシシはさらに多くの木々をなぎ倒しながら、進撃を続けていく。
やがて木々の隙間から明るい日差しが見えてきた。ここから先は突進をいなすための木々がない平原地帯に差し掛かる。ヴァルフは今一度覚悟を決めこぶしを強く握った。
「ツレヒト様、どうか力をお貸しください」
声など届くはずがないほど遠く離れていても、心の中では確かに彼とのつながりを感じていた。その証拠にヴァルフの身体は淡い輝きを放ち始めた。そしてその光はヴァルフの身体能力を向上させるだけでなく。相手の注意も強く引き付けた。
そのままヴァルフは平原に飛び出すとただただ広いだけの草原を全速力で駆けだした。先ほどよりも体が軽くより速い速度で走ることができるものの昨日見た通り回避に使えそうな障害物はほとんどなく、ここからは本当に走力がものをいう戦場となっていた。あたりを少し見ると視界の端に今回イノシシをぶつけるための崖が見える。きっとその上にはツレヒト達が待っている。ここからはその姿ははっきりと見えないが。確かにそこにいると感じることができる。
ヴァルフはそこめがけて一直線に走る。昨日はただゆっくりと歩いただけだが、こうして走ってみるとかすかに起伏があることに気が付いた。だからと言って相手にとっては一切障害になりえないことなのだが、ヴァルフにとっては油断すると足をとられそうになる。
だが極限状態ゆえにヴァルフの五感は冴えわたり常に最適なルートを走り切ることができていた。
そんなヴァルフの様子を崖上にいたツレヒト達にもはっきりと見えていた。




