ご主人様に勝利を
罠も仕掛けた、誘導する道順もしっかりと決めた。そして直前にリースとヴァルフが偵察に出てきてくれたおかげで獲物の大体の位置も把握した。いよいよ準備は整った。
「それでは行ってまいります」
「うん、くれぐれも気を付けてね」
「お任せを」
ヴァルフはどこか誇らしげな顔で槍を背負うと、イノシシのいる森へと歩いて行った。
「ヴァルフ!!」
僕は思わず衝動のままに飛び出し、そしてそのまま彼女の手を握った。それは僕自身も意図していない行動だったため、後になってはっとした。
「どど、どうなさいましたご主人様!!」
「いや、特にあれということはないんだけど・・・ヴァルフ」
「はい///」
「頑張って」
たった一言だった。ほかにも言いたいこと言うべきことはたくさんあるだろうに出てきたのはその一言だった。だがそれでもしっかりと僕の能力の発動条件を満たしたようで、僕の手首からあふれ出た暖かな光がつないだ手を通じて、ヴァルフの身体へと流れていった。
「はい、必ずご主人様に勝利を持ち帰ります」
「よし、いってらっしゃい」
「いってまいります」
ヴァルフは勇ましく駆けていった、その後からリースが慌てて追走した。僕はその様子を見守りながら、自身の配置場所へと移動した。
「こちらです、ご主人様」
崖上から少し進んだところでチセの声がしたので、そこに向かってみると、チセ、コチカ、クイネの三人が身を伏せて隠れていた。なので僕もチセの横に伏せて、そこからあたりの景色を眺めていた。
「お二人は配置につかれましたか?」
「うん、しっかりと見送ってきたよ」
「それは何よりでございます。ところであちらをご覧ください」
チセが森の一角を指さすのでそこを見てみると、木々の間に明らかな遺物があった。それはまるで小さな山のようだが、山とは違いゆっくりであるが、周りの木々をなぎ倒し移動しているように見える。
「あれが、今回の標的です」
「うん、わかってはいたけど大きいね」
「あれだけ大きければ、お肉たくさんなのです」
「たのしみ~」
コチカとクイネの二人はもうすでに狩り終わった後のことで頭がいっぱいのようで、一応事前に食事は済ませたのだが、もうすでに腹の虫が鳴り出しそうな勢いだった。
「二人とも、ご飯はまだ少し先ですので、もしおなかが空いてるのならこちらを」
そう言ってチセは腰に付けたコブクロの中から小さな果物を取り出し、コチカとクイネに渡そうとしたが、二人はそれをやんわりと断った。
「ご主人様~」
「動いたのです。あのお山が激しく動いたのです」
クイネが指さす先で、次々と木々がなぎ倒されていき強烈な地響きと共に、巨大な塊が森の外に向けて爆進しているのが見えた。どうやらヴァルフの陽動が上手くいったようで、獲物はいっさい進路を変えることなく直進を続けていた。
「お姉ちゃん頑張れなのです」
「走れ~」
木々が邪魔ではっきりとは見えないが、あの下ではきっとヴァルフが死に物狂いで走っているに違いない。今の僕にできることはこの崖上から彼女の無事を祈ることくらいであった。




