僕の尊敬できる人
「あれ、もしかしてリース今笑った?」
ここに来てからずっと仏頂面だったリースが今、ほんの少しの間だけだが笑ったような気がした。
「なわけないだろ、母さんを取り戻してないのに、笑えるわけねぇだろ」
「そっか、それもそうだよね。よしじゃあ話を戻そうか。ヴァルフはこの槍を使ってイノシシをつり出してね。リースは子供たちと崖の上で待機ね」
「わかりました。お任せを」
「ああ、わかった」
「ご主人様~」
はるか遠くからクイネの声が聞こえた。
「ご主人様、穴掘り終わりました」
「三人ともお疲れ様」
「ギリギリ水筒の水が足りてよかったです」
「どろどろ~」
「土まみれなのです」
コチカとクイネの二人は衣服のあちこちに泥や土がついていた。それとなぜか穴の上で見守っていたはずのチセまでも土で汚れている。
「どうしたのチセ」
「いえ、最初は見守っていたのですが・・・」
チセの話によると、確かに当初の予定通り上から見ていたのだが、少し油断したすきに穴の中に引き込まれ、そこから泥んこ遊びに発展したらしい。なので実際は今より3時間ほど前にはすでに穴掘りは終わっていたらしい。まあだからと言って僕が彼女達を怒ることなどするはずがない。子供は遊んでなんぼの生き物だと思っているので、良しとしておく
「コチカ、クイネ、楽しかった?」
「はいなのです」
「ならよかった。でもそのままだといけないから、ご飯の前にお風呂に入ろうか?」
「あいなのです」
「あいあい」
「わかりました。では水浴びの準備をしますね」
「ちょうどこっちも終わったところだから手伝うよ」
「ありがとうございます。それではお願いします」
僕はチセに続いて、水場へと向かった。
三人が体をきれいにしている間、流石にそばにいるわけにはいかないので、拠点で火をおこしをしていた。ヴァルフも三人の護衛についてしまっているので、自然と僕はリースと二人きりになっていた。コチカやクイネ、そしてヴァルフには多少心を開いているようだが、まだまだ僕のことをは警戒しているようで、先ほどからずっと視線を外していない。
「なあ、奴隷商人」
「なんだい」
「一つ聞いていいか?」
その日は珍しくリースの方から僕に話しかけた。
「なんだい」
「お前はあの狼の獣人のことをどう思ってるんだ」
「ヴァルフのこと?」
「そうそいつだ」
平たく言ってしまえば最初に出会った旅の仲間で、奴隷で・・・などという答えでリースが満足するわけがない。だけども難しく考える必要もないと思った。
「ヴァルフは僕と比べてとっても頑張り屋なんだ。だから僕は彼女のことを尊敬している。僕にはもったいないくらい素敵な仲間だと思ってる」
「仲間、お前はよくその言葉を口にするが、どうして奴隷だと思わない」
「奴隷か・・・正直あんまり好きじゃないんだ。その言葉」
「ふっ、ではなぜ奴隷商人をやっている」
「う~ん、その辺はどう説明したらいいのか、言っても信じてもらえないだろうからな」
「まあいい、そこに関してはそこまで興味はない。私が聞きたいのはお前があの狼をどう思っているかだ」
「そうだったね、僕は彼女のことを奴隷だとは思っていないよ。ヴァルフは・・・奴隷として僕に仕えてくれているみたいだけど。だからそんなヴァルフの思いに応えたいと思っているんだ。そうすることで僕は変われる気がするんだ」
リースは黙って僕の話を聞いてくれた、きっと彼女なりに思うことはあるのだろうが、ただ何も言わず僕が起こした火に落ちていた枝を投げ入れた。
「まさか、好きなのか」
リースのいう好きは単なる好き嫌いではなく、恋しているのかという意味であることはいやでもわかった。まだ幼いにもかかわらずそんなことまで知っているとは、恐れ入った。
「正直よくわからないんだ。あっちでは人を好きになるどころか信じることすらろくにできなかったから。でも」
「でも」
「ヴァルフの言葉は信じていいと思えるんだ」
どんな時でもヴァルフは常に僕を見ていてくれた。時に応援し、時に叱ってくれた。それは何か彼女なりの打算があったわけではなく、単純に僕のことを案じてくれているからこそだと、理由も根拠も何もないけど信じることができた。
「そうか、やっぱり変だよお前」
「そうだろうね」
リースがまたしても枝を火に投げ入れようとしたが、今度はそれが僕の後頭部にあたった。
「・・・ごめん」
「いいよ」
そのせいでなんだかとてもきまずい空気になった。




