武器を持たせるということ
作戦も決まった、道具もそろった後は準備するだけだ。僕は改めて皆を集め準備に取り掛かった。今回の依頼ではコチカとクイネの二人には一切出番がないと思っていたが、僕とリース、それにヴァルフが細かい打ち合わせをしている間に、ヴァルフが飛び込む穴を掘ってもらうことにした。一応万が一のことがあってはいけないので、チセにもお手伝いと監督役として付いてもらっている。
「穴掘り、穴掘り♪」
「ホリホリ~」
「コチカちゃん、クイネちゃん。夢中になるのはいいけど、時々水を飲んでくださいね」
チセの計らいによってコチカとクイネの腰には街で買った水筒が下げられており、中には塩と柑橘系の果実の汁を混ぜた水が入っており、塩分とビタミンを効率よく補充できる、まさに労働にはもってこいの飲み物が入っていた。
「あ~い」
「なのです」
チセが声をかけると二人は水筒の中身を少し飲み作業に戻った。その様子を見て、チセは再び時を数え始めた。最初の内は二人とも一切水分を取らず一時間くらい掘り続けたので、流石にそれでは二人の身がもたないということで、一定間隔でチセが声をかけるようにした。
「どうやら、あっちは順調のようですね」
「そうだね、じゃあこっちも進めようか」
リースの知見により、例のイノシシがどのあたりをなわばりにしているかは大まかにつかめているが、そこからここまで引きずり出すための算段を練っていた。
「奴の突進は木々を余裕でなぎ倒す。しかしそれで全く止まらないという訳ではない」
「というと」
「木々を奴の正面に持ってくればいい。そうすれば残った切り株や、倒れた原木を避けるために減速したり、方向を修正せざるを得なくなる。だからその隙にリードを稼ぐんだ」
「なるほど、障害物をうまく使うのですね」
「あるいは左右に大きく逸れればいい、それでも軌道修正の時間が稼げる。とはいえどちらもほんの数秒だ、まあせいぜい二呼吸するくらいが関の山だな」
「ふむふむ」
「それにだ。囮とはいえ流石に丸腰というわけにはいかないだろう。おい奴隷商人、武器はあるのか」
「一応ギルドで買ってきたよ」
僕はギルドで買ってきた槍を取り出すと、刃に巻き付けられていた布を取った。正直武器の良し悪しはよくわからないが、持ってみた感じ一番しっかりしたものを選んだ。なのでギルドで買ってきた物で断トツの高値になってしまった。
「よし。とりあえずは用意できているな」
「ヴァルフ・・・持ってみろ」
リースに言われるがまま、ヴァルフに槍を渡そうとしたのだが、ヴァルフは手をパーにしてそれを拒んだ。
「どうしたのヴァルフ? もしかして他のやつがよかった?」
「いえ、そうではありません。ご主人様は奴隷に武器を与えるということについてどのように理解しておられるのですか?」
確か会長の話では、闘わせるための奴隷がいるとかそんなことを聞いた気がする。もしかすると僕が想像していた古代ローマのコロシアムで行われていたような剣と盾の戦いではなく、ボクシングや総合格闘技のような殴り合いだったのかもしれない。
「いいや、そんなには」
「なるほど・・・ご主人様これは後学のために知っておいていただきたいことなのですが」
そう言うと今度はヴァルフは僕から刃がむき出しになった槍を受け取った。そして
「奴隷に武器を与えるということはこういうことです」
そう言ってその刃先を一切の迷いなく僕の首元に突きつけた。
「えっと、ヴァルフ・・・冗談だよね」
「はい、もちろんでございます。私がツレヒト様に背くことなど決してありません。しかし」
ヴァルフは槍先を空に向けた。
「奴隷に武器を与えるということは反乱を招くことにもなります。特にご主人様は戦闘においてはからっきしでございます。それゆえに万が一反乱があった際にはなすすべがございませんよね」
「・・・はい、気を付けます」
そう言うとヴァルフは改めて僕に槍を返した。




