互いに大変だが、心は許せない
「他の都市と比べて、ここには一点だけ違う点がありますがそれが何かわかりますかな?」
「奴隷を売買するための市場がない」
「その通りです」
だがしかし、時折僕らが連れている以外の奴隷もいることはすでに確認済みだった。
「しかしそれがなくともこの街は仕事の仲介などを通じて、かなり発展していると思うのですが」
「ありがとうございます。しかしそうなるまでにいろいろとありまして」
「・・・大変だったんですね」
「いえいえ、大変だったのは私の先代たちです。私の代にはもうすでにすべて片が付いておりましたので。そうだもしツレヒト様がこの依頼を無事に達成できましたら、私共が保有する秘密の奴隷市場にご案内いたしましょう」
「いいんですか!?」
まさに願ってもいない提案に僕は分かりやすく飛びついてしまった。そして後になって少し気恥ずかしくなり、会長と同様に飲み物に口をつけてごまかした。
「もちろんですとも、ツレヒト様があのイノシシを倒してくれればこの街の英雄と言っても過言でありません。何しろ奴のせいで多くの依頼が失敗に終わったり、物流の面でも襲撃により荷物の損失が相次いでまして、町の人々からも早く何とかしろと連日懇願されておりましたので、ツレヒト様のさらなるご活躍の一助になれればと」
「それは、ありがたいです。実はまだまだ駆け出しの商人なので。優秀な人材はぜひとも欲しいところなんです」
「・・・人材ですか」
失言だった。ついいつもの癖が出てしまった。僕の価値観とこの世界の価値観は大きく異なっている、調子に乗ってついそのことを失念してしまった。
「ああ、えっと、その」
「いえいえ、おっしゃりたいことはよくわかりますとも。優秀な奴隷は捕獲難易度も高いですからな、奪い合いになるのは必然のことです」
「そ、そうなんです。僕みたいなのはまだまだ若いからとつい足元を見られてしまって」
「それはそれはツレヒト様も苦労が絶えませんな」
「会長さんほどではありませんよ」
互いにけらけらと笑いあったところで、今回はあくまでギルドの商品だけを使うということを条件に道具の代金を割り引きしてもらうことで双方合意した。会長さん曰く、万が一に僕が失敗することがあっても自社ブランドのプロモーションができるからとのことだった。まったくどこまでの商売のうまい人だと、この小太りのおっさんに少しだけ感心してしまった。
話が終わってすぐに僕らは先ほど僕が物珍しそうに眺めていた売店に戻ると、会長さんに進められるがままおすすめの道具を次から次へと籠に入れていき、最終的に帰るときには背中に巨大なリュックサックを背負わなければならないほどに買い込んでしまった。だがそれほど買ったにもかかわらず会長さんの割引があったおかげで、当初の予算よりも安く済んだ。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、ツレヒト様の御武運をお祈り申し上げます」
今日一日僕は至れり尽くせりの対応を受けた。しかし彼がリースにとって目の敵にあたる人物であることが確信した為、もうこれ以上に彼に気を許してはいけないと己の身を強く引き締めた。




