狩のやり方と報酬分配
差し出された紙を手に取ると、その内容を確認する。会長から手渡されたそれは、一枚の依頼書であり、ついさきほどまで僕が眺めていたボードに貼られていたものと一見すると同じに見えた。
「なに、そう身構えなくてもいい。別におかしなことは書かれていないよ」
そう言われてしまったので、今度こそ僕はその依頼内容について確認する。それは一頭のイノシシの討伐依頼であった。
「これが、僕等への依頼ですか?」
「そうとも、なにか変かな」
「いえ、てっきり薬の納品とかそういうものだと思っていたので」
正直そっちの方がはるかに楽だし、安全なのだ。それにそう難しいものでもなさそうだ。しかし討伐依頼となると、戦力になりそうなのはヴァルフ一人になる。
「ツレヒト様には人並外れた知力がおありなことは我々もよくよく理解しているところでございます。ですので、次は腕っぷし、武力の方を見せていただきたいのです」
「武力・・・ですか」
正直奴隷商人にそれが必要なのか、疑問しか残らない。というかあまり戦闘の強い奴隷を抱えると、それはそれで反乱されたときなどに痛い目を見るような気がしなくもない。
「おやおや~もしかして、私の発言に疑問を抱いておられますね~。まあおっしゃりたいことも分かりますとも、ツレヒト様は万が一の反乱を恐れている、違いますかな?」
しっかりと心の中を読まれてしまった。それがいったい会長として培われたものなのか、それともこの世界の魔法か何かなのか、どちらにしても目の前のこのでぶっちょが相当なやり手であることはいやでも認めざるを得なくなった。
「強い奴隷というのはそれはそれで需要があるものなのですよ。拳闘による賭け事、それにダンジョン探索、それに害獣や魔物の退治。とこのように多彩な用途があるのです。それに万が一我々人間に反旗を翻したとしても、奴隷商人の皆様には専用の魔術があります。それにそのようなものを持たぬ人たちのための隷属の首輪もございます。ですので反旗を翻せばその場で処分してしまえばいいのです」
「そうですか・・・」
僕は肯定することも否定することもできず、あいまいな返事でごまかした。きっと僕も奴隷商人の端くれなので、いざとなれば隷属魔法も使えるのかもしれない。だがそんな魔法が必要になることは当分ないだろう。
「それで、こちらの依頼どうなさいますかな」
「決定する前にいくつか質問してもよろしいですか」
「ええ、なんなりと」
「このイノシシを狩ったという証明は何をもってするのでしょうか」
「そうですね・・・やはり牙ですね。装飾品として非常に価値が高いのです」
「なるほど、わかりました。では牙はお譲りするとして、残った肉や皮などはどういたしましょう」
「基本的には討伐した場合、それはツレヒト様に所有権がございます。しかしかなりの量になります故、ただ持っているだけではあっという間に腐らせてしまいます。ですがもしツレヒト様がイノシシの素材をこの街に持ち帰ることができましたら、わたくしたちが高値で買い取らせていただきます」
「なるほど、つまりは僕たちでなんとかできる分だけは手持ちにしてもよいということですね」
「ええ、その通りですが・・・」
正直言いたいことは分かる。あっちの世界でもイノシシの肉や皮に需要があったかと言われれば微妙である。しっかりとした処理をすればおいしく頂けるのだが、それができるような人材を僕が抱えているのか・・・正直ヴァルフかチセに聞いてみないとわからないが、それでも一個人が巨大イノシシの素材を丸々一頭分使い切るなんて不可能だ・・・そう思っているのだろう。
「なるほど、話は分かりました」
「では?」
「一度持ち帰ってもいいですか、すこし考えたいことがあるので」
「え、ええわかりました。ぜひとも良い返事を期待していますよ」
会長は額に脂汗をにじませながら、僕に笑顔で手を振った。




