ギルドの長の頼み事
昨日と同じように、検問を通り街に入る。昨晩の件があったため衛兵さんから嫌な顔をされたが、こちらが丁寧な対応を心がけると、いつも通り笑顔で通してくれた。
それからいつも通り混雑する人込みの中を抜け、ギルドにやってきた。ここもまたいつも通り仕事を求める人が集まり、その一人一人に対して職員の人たちが丁寧に対応していた。つまりはこの光景がここの日常なのだろう。ならば僕もまずはその日常に溶け込むほうが良いと思い、あたりを見回してみたところ、とある掲示板が目に入った。近づいてみてみると、それはここ最近届いた依頼をピックアップして掲示しているもののようで、ちょうど僕が見たかったものであった。だから僕は迷うことなく、それに向かって歩き出し、そこに張り出されたものを一つずつ丁寧に眺めていた。
「なにか、気になるものはございますかな」
突然真横から声をかけられた僕は思わず大きく後ずさった。掲示板の内容を見るのに夢中になっていたため、背後から近づいて来ていた人物に気が付かなかった。
「びっくりした」
「おやおや、驚かせてしまって申し訳ございません」
僕に声をかけてきた男はいかにも高そうなシャツを着用し、さらには10本ある指の内八本に宝石のついた指輪をはめているまさにお金持ちという風体だったが、パンパンに膨れたおなかがシャツのボタンを今にも吹き飛ばしそうになっているのが、一番強く印象に残った。
「私は、このギルドの長をしているものである。そして君が今話題になっている奴隷商人か」
「ええ、どうでしょう」
彼の恰幅に僕は一瞬にしてひるみ、言葉を失った。まさかいきなり長が出てくるとは思ってもみなかった。そういう人って本来ならバックオフィスで大量の書類に印鑑を押すとかの仕事をしているのではないかと思っていた。しかしこうして見てみると太ってはいるが、背筋はピンと伸びており、確かに長たらしめる威厳はしっかりあるように思える。
「いや、間違いない。職員から聞いている特徴と一致している。お会いできて光栄だ」
会長さんはこちらに握手を求めて手を差し出してきた。一応礼儀を欠いてはいけないと思い握り返すが、正直何か悪いものに刺されでもしないとこれくらいのサイズにはならないだろうというくらいに彼の手は大きく膨れている。
「きみは非常に優秀な奴隷を持っているとか、今この街に卸されている薬、あれは君が作らせたものなんだろう」
「確かに僕らは薬を作って売っていますが、なにかまずかったでしょうか」
「いやいやとんでもない。あの薬のおかげで多くの者が救われたよ。だから感謝しているんだ」
確か日本では薬を売るのにも資格か届け出が必要なはずなのだが、この街でそれが必要かどうか確認せずに卸していたことを今更ながら恐れたが、どうやらその心配はいらないようだ。
「いったいどんな伝手で手に入れたのか、あるいは君自身の力かわからないが、私は君を気に入っていてね。もしよければ君を特別な場所に招待したいのだが」
まさかの申し出だった。その特別な場所がこの街の奴隷市である可能性は十分にある。これは断る理由が見つからない話だと思った。
「だけど、その前に君にこなしてもらいたい依頼があるんだ」
そう言って会長は一枚の依頼書を懐から出し、僕に差し出した。




