聞かれたらまずい発現
「これから苦労を掛けるかもしれないけど、皆に嫌な思いは絶対にさせないから。どうか許してほしいと、ご主人様はおっしゃっておりました」
それを聞いた三人は思っていた。やはりツレヒトは異常だ。異常なまでにお人よしなのだ。きっと彼の頭の中は誰も傷ついてほしくない、苦しい思いをしてほしくない。そんなことしか考えていないのだろう。まるでお花畑の中にいるメルヘンな子供のようだと誰しもが笑うだろう。実際今でも人間と獣人は戦争し、あちこちで人さらいや虐殺が起こっているこの世界で、人も獣人も関係なく、奴隷も主人の垣根もいらないなんてあるはずがない。
「今回のことは、リースを救う為でもあるんです。我々のご主人様は自分たちからお金を奪って者まで助けようというのですから、大変な変わり者ですね」
さらっと、そしてすがすがしい笑顔で大胆な発言をするヴァルフにコチカは大いに慌てた。
「だよね~わかる~」
さらにはいつの間にか起きていたクイネまでつられだしたので、いよいよコチカは追い込まれてしまった。
「そんなこと。もしご主人様に聞かれたらどうするのです」
「問題な~し」
「問題大有りなのです」
「あれ、どうしたのクイネ?」
そんな時寄りにもよって出発の準備に一区切りをつけたツレヒトが様子を見に来てしまった。
「あわわ、ええええっと、ご主人様ままま、何でもないのです」
「・・・?」
そこにいたのは、ただ一人であたふたするコチカと、その様子を見ながら、口を押えて笑いをこらえるヴァルフとクイネの二人だった。
「えっと、大丈夫?」
町に行く準備に一区切りがついたので、改めてコチカとクイネに声をかけようとしたところ、なぜだか先に行ったヴァルフとコチカが必死に笑いをこらえている場に出くわしてしまった。
「大丈夫なのです。なにもないのです」
「ええ、何もございません」
「・・・そっか」
明らかに嘘だとわかるが、追及してもきっと何も教えてくれそうにないので、僕は諦めて本題を切り出すことにした。
「さっきも聞いたと思うけど、これから僕たちはリースのお母さんを救出するためにギルドのどこかにある奴隷市を目指そうと思う。もちろんそこに皆を連れて行こうとは思わないけど、そこに行くために協力してほしいんだ。はっきり言ってこれは僕のわがままだし、身勝手なことだとわかってる。だけど・・・どうか・・・」
僕は改めてコチカとクイネの目をはっきりと見つめた。コチカはいつも通りぼんやりとしているがクイネの方には強い不安の感情が見て取れる。
「コチカ、クイネ。二人の力も貸してほしい」
確かに二人からしてもリースはかわいそうな存在だ。それにもしも彼女を救えなかったら自分たちは再び後悔することになるだろう。
「わかったのです。クイネ頑張るのです」
「ありがとう。クイネ」
「はい、なのです」
僕はわがままを言っていることは十分に理解している。だからこそこうしてはっきりと賛同してくれることが嬉しかった。
「コチカも~」
「ありがとう、コチカ」
「えへへ~」
「ヴァルフも引き続きお願いね」
「かしこまりました」
「よし」
改めてそれぞれと瞳を合わせると、途端にやる気がわいてきた。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「「「いってらっしゃいませ」」」
皆に見送られ僕は、再び街に入りギルドを目指した。




