奴隷競売と脱走事件
活気ある声の横を幾度もすり抜けながら、ただただ案内役を自称する男の背を追っていた。こんなにも広い敷地の中にも関わらず、目の前の男性は一切迷うことなく、時折同じ格好をしたスタッフのような人と二三言葉を交わしながら、進んでいった。
「さて、ツレヒト様こちらが馬車の売り場となっております」
一際天井の高い区画に案内されたかと思うと、そこにはまるで、現代のショールームのように、様々な型の馬車がまるで高級車のように、展示されていた。そしてその周りにはこれまた身なりのよい人たちが、真剣なまなざしで馬車を吟味していた。
「さて、ツレヒト様この中にあなた様の要望に合うものはございますかな?」
「そうですね、ひとまずは、この子たちも乗るので、荷台が大きなものがよいですね」
「なるほど、しかしそうなると割高になってしまいますな~、奴隷を歩かせればその分コストを削減できますが、いかがなさいますか」
「・・・」
ここでは奴隷である三人に人権はだからそのようなことをさも当たり前のように言えてしまう、だが僕の中にそんな非道な選択肢はない
「いいえ、彼女たちも荷台に乗せます。今彼女たちに倒れられると、商売上がったりですので」
「なるほど、まだお若いがゆえに今側にいる奴隷以外持ち合わせていないということでしょうか」
「はい、実は・・・」
「そうでしたか、ではこの後奴隷市の方にもいかれますか?」
「えっと」
実際人と話すのはそこまで得意ではないので、これ以上人数が増えると僕のキャパシティが限界を超えそうなので、遠慮したいが、昔からこういうぐいぐい来るタイプの店員に弱いのだ。
「えっと・・・わかりましたでは見るだけ」
「おお!! ツレヒト様あなたは私が見込んだ通り聡いお方だ。そうとなれば善は急げです。今日は一級品の奴隷が入荷しておりましてな」
馬車を買いに来たはずだが、いろいろと余計なものまで売りつけられそうな予感がしながらも、そこから男は誠意をもって商品を紹介してくれた。そのおかげでファミリータイプの馬車を格安で手に入った。そしてついでのオプションとして車中泊用の毛布や荷物を入れる用の箱など様々なものまでつけてくれた。その代わりとして、奴隷オークションの参加を確約させられてしまった。
なので奴隷の子供たちは一旦買った馬車の番を任せ僕は一人でオークションに参加することになった。
「ご主人様、こちらのことは気にせずどうか心行くまで」
「ああ、わかったよ。そっちはお願いね」
なんだか不穏なことを言い残して、ヴァルフさんは僕を送り出してくれたが、そのことについて深く考える余裕はすぐになくなった。先ほどまでいた馬車売り場とは雰囲気が一変し、普段であればオペラとかが上演されてそうな荘厳な雰囲気の中、参加者たちはアルコールを楽しみながら、売買の開始を今か今かと待っている。
「緊張なさってますか」
「はい、こういうのは初めてなので」
「最初は誰もが尻込みしますが、勢いが大事なのです、興味があればとりあえず押さえておく。もしダメなら使い潰してしまえばいいのですから」
「は、はぁ」
そんなことを言われても、いざその時が来たときに僕はそんな風に割り切ることができるわけがない。
「さあ、始まりますよ」
目の前で幕が上がり、その奥にはスーツ姿の男が立っていた。
「皆さまお待たせいたしました。これより奴隷オークションを開始いたします。それでは挨拶はそこそこにさっそく始めてまいります」
舞台袖から巨大な檻が台車に乗って運ばれてくると、客たちはその中に収監されている獣人を見て感嘆の声を上げた。
「あれはなかなか労働力として使えそうですね、競り落とされては」
見たところまだ10代かそこらの若い男性の獣人のようだが、ずっと下を向いているせいで正確な年齢はわからない。そんな彼の行く末をここにいる全員が狂気のまなざしで値踏みしている様に僕は怖くなり、ただ自身の番号が書かれた札を握りしめることしかできなかった。
そんな状態のまま売買は淡々と進んでいき、終盤を告げるアナウンスで正気に戻った。
「それでは皆様、大変お待たせいたしました。本日の目玉商品の登場です」
盛大なアナウンスが、客たちの興奮を呼びおこし、会場一帯が異常な熱気に包まれる中運ばれてきた檻の中にはこれまでの人たちはとは違い、鋭い瞳でこちらをにらみつける女性がいた。
「この者は先の大戦で人類側の兵士100人を殺した獣ですが、この度我々は奴を捕獲することに成功いたしました。さあこの者の運命を決めるのはここにいる皆さまです。復讐のためにいたぶるもよし、この熟れた体を恥辱に染め上げるもよし。さあ皆さまふるってご参加ください」
司会者に煽られ、みんな一斉に手を上げ札を掲げだした。その熱気に充てられた僕もまた顔を上げて目の前で競売にかけられる獣人の女性と目を合わせた。彼女は瞳の中に激しい憎悪をにじませながら、次の瞬間激しく吠えた
「私は貴様らの愛玩動物には決してならない、よく覚えておけ人間ども今から貴様らを皆殺しにしてやる」
それは威勢ではなく、確実に実行可能な宣言のようなものだと僕は直感で理解した。そのせいで僕の身体は恐怖で縮こまってしまった。
「このように威勢はよろしいですが、ご安心ください。我々が開発した最新式拘束器具によって、ってちょとちょっとー」
突然ミシミシと音と共に獣人は歯を食いしばると、血管が浮き上がるほどの力を腕に込めた。しかし司会者は余裕尺尺といった様子で競売を進行しようとしたのだが、彼女の人間離れした力によって、腕についていた拘束具はいとも簡単に引きちぎれた。
「な、そんなばか」
言い終わるよりも先に檻と一緒に司会者は胸を切り裂かれた。突然の出来事に会場は一気にパニックになり皆一斉に出口に殺到した。
「ツレヒト様こちらへ」
僕も案内されるまま出口に向かっていたのだが
「奴隷商人共め」
先ほどまでステージ上にいたはずの獣人が気が付けば僕の目の前にいた。




