旅支度と最大級の市場
「うーん、おいしいのです」
「うまうま」
「このような食事本当に良いのでしょうか」
広場の一角に腰を下ろし先ほど買った肉串をゆったりと食べていた。子供たちが食べることに夢中になっている間に僕は辺りに視線を配っていた。僕らの他にも奴隷とその主人といえるような人たちは多数いたが、そんな奴隷たちの中で、食事をしているものはおろか、地面に座っている者さえもいなかった。皆鎖につながれた状態でずっと立っていた。ちなみに僕の側にいる獣人三人の鎖は、事故の際に壊れてしまったらしい。
「さて、これからやることは馬車の購入でしたよね」
「はい、ここからそう遠くないところに、商人用の大市場がございます。そこに行けば、馬車もそうですが、日用品や消耗品、加工食品なども手に入れることができます」
「なるほど、それにしてもヴァルフさんはどうしてここまで詳しいんですか」
「以前お仕えしていた方がここをよく利用されていたので、その時にいろいろと覚えました」
「そっか、それなら早めに動きましょう。日が落ちるまでには宿の確保まで済ませておきたいので」
「わかりました。行きますよ二人とも」
ヴァルフさんが声をかけると、二人はすぐに立ち上がった。見た感じまだまだ生意気盛りな年ごろだろうに、すんなり指示に従ったということはよっぽど強く信頼されているのだろう。それほどまでの信頼関係をいったいどうやって築いてきたのか、気になりはするが今、それについて言及を求めることは僕にはできなかった。
だがその気持ちも、案内されて訪れた大市場を見たとき一瞬にして吹き飛ばされた。
そこはまるで大きな倉庫のような建物だったが、その中では見るからに裕福そうな商人たちが自身の品物を手に取引にいそしんでいた。そしてそんな人々から一般客と思われる人たちが、いろいろなものを買っていた。
外の屋台はどちらかというと地元のお祭りや、海外の路上販売のような感じであったが、ここはデパートと競り市を合わせたようなまさに活気に満ちた場所であった。
「これは、すごい」
「ここは人間の市場の中でも最大の規模を誇るものです。そのためこれほどまでに強大になっているのであります」
「そっか~、うんここならなんでもそろいそうだね」
「ええ、おっしゃる通りかと」
興奮のあまり自然と目を輝かせている僕に対して慣れているであろうヴァルフさんはとても冷静だった。
「もし、そこの若いお方」
いきなり声をかけられ、ややおびえながら振り返ると、そこには頭に布を巻いた一人の男性がたっていた。
「もしかしなくとも、奴隷商人の方でしょうか」
「え、ええ」
「そうでございますか、それにしてもそれほどお若いのにもう奴隷を連れられているとは、敬服いたします」
「そんなことは」
「何をご謙遜されますでしょうか・・・おや失礼いたしました。私はこの市場の案内役を務めているものでございます」
「はい、えっとツレヒトといいます」
「ツレヒト様、本日は何をお求めですかな」
「馬車が欲しいなと思っています。旅をしてみたいので」
「旅ですか・・・ツレヒト様はなかなか珍しいことをお考えになるのですね」
「というと」
「本来奴隷商人の方はこのような大型都市での生活を捨てて、外に行こうなどとはあまり思われないものでして。いえ決してあなた様の御考えを否定しようとなどということはないのですが、この都市においては奴隷の需要はかなり高くそれをつかさどる奴隷商人様は、羨望のまなざしを向けられ、地位、名誉、財も保障されたも同然なのです」
いきなりそう言われると、それが当然のようにも思える。実際目の前の人は間違ったことは言っていない。確かに冒険は魅力的だが、戦闘はからっきしな僕がこの都市から出て生活するのは、それなりのリスクがある。でもせっかく異世界に来たのだから、冒険の一つくらいはやってみたいと思うのが異世界に来た者の性というものだろう。
「ですが、お客様が欲しいものを常に提供し続けるのが、我が商会のモットーでございゆえ、ささこちらへご案内いたします」
男に連れられずんずんと奥へと進んでいった。




