コチカとクイネの看病 秘密の約束編
「待て待て、待ってくれそんなに一気には食べられないから」
「遠慮はいらないのです。怪我してるときはいっぱい食べるのです」
「回復の秘訣~」
「それはそうかもしれないが、限度というものがあるだろうが」
口ではグダグダと言いながらも差し出される匙を拒むことはなく、あっという間にリースは用意された食事を完食してしまった。食べ終わった後になって、もしこの食事に毒が入っていたらとおそろしい想像をしたのだが、もしそうなら自分はとっくに苦しみだしているはずなので、どうやらその可能性はないと安心することができた。
ちょうどよい具合に腹も膨れてきたのだが、本来襲ってくるはずの眠気が全く来ない。それもそのはずついさきほどまで回復のためにリースはぐっすりと眠っていたのだが、そのせいでまだ目がさえわたり、眠気など全く襲ってこない。
「少し、いいか」
寝ることもできない。逃げ出すことも敵わない。そうなると必然的にやることがない。この街に来てから初めて本格的に暇を持てあましてしまった。どうしようもないリースはそばで空になった食器を重ねている子供たちと少しだけしゃべってみようという気になった。
「なあに~」
「お前たちはこの生活に満足しているのか」
先ほどまではあまりの空腹でまともに頭が回らずわからなかったが、腹が満たされてからしばらくしたことで、脳にしっかりと栄養がいきわたり、頭が冴え出してきたことで、この一団のおかしな点に気が付いた。
「うん、毎日おいしいご飯が食べられるし~」
「それに、いつかおうちに帰してくれるのです」
「そうなのか・・・」
この二人はあの人間についていけばいつか故郷に帰ることができると本当に信じているようだが、それは人間の奴隷商人がよく言う常套句の一つに過ぎなかった。そうやっていつかはという淡い期待をもたせるだけ持たせて、脱走や生産性の減少を抑制しているのだ。実際にリースも昔はよく言われていたものだ。だがそのたびに母は険しい顔をしていたことを今でも鮮明に覚えている。
「だが残念ながらそれは嘘だ。あいつは君たちを家に帰す気などない」
だからこそ淡い期待に飲み込まれ、飼いならされる前に、一人の獣人としての尊厳を奪われる前に自らもまた意思を持った命なのだとこの子たちに自覚させる必要がある。だからこそ残酷だとわかっていながらもリースは告げた。だがしかし話した内容が難しすぎたのか、目の前の二人はポカンとした顔をしており本当に話を理解したのかわからなかった。
「・・・そんなことわかっているのです」
「えっ」
「うんうん、だよね~」
リースは言葉を失った。それまではただただ能天気な子供たちだとばかり思っていたが、彼女たちはさも当然のように、今の現状を理解し受け入れていた。それもあきらめの類ではなく。さも当然かの様に、それが自分たちにとっての日常かの様に、頭で理解し受け入れていた。
「・・・いや、その帰りたいとは思わないのか、きっと君たちのことをママとパパが待っているはずだろうし」
「クイネはそれをわかっているのです。でも諦めたわけではないのです」
「コチカも~」
「それはいったい、どういうこと」
「コチカとクイネには、約束があるのです」
「それはあの人間とのか?」
「それもあるけど~・・・秘密の約束~」
「そうなのです。誰にも教えないのです」
てっきりただの子供だと思っていた。大きな町を一区画歩くだけでも、ごまんといるような獣人の子供奴隷、または奴隷の身分すらもたない野良獣人、そのうちの一人だと思っていた。だがこの子たちはほかの子供たちとは違い、確かな覚悟を感じた。
「わかった。二人の約束については、もう聞かない。だけどその代わりに協力してほしいことがある」
今度は自分が腹の内を話す番だとリースは深く空気を吸い込んだ。




