コチカとクイネの看病 食事編
その後僕は、コチカとクイネ、リースの分の食事を持って、三人の元に戻った。
「みんな、ご飯だよ」
「わ~い」
「ご飯なのです」
「・・・」
コチカとクイネはわかりやすく反応したが、リースは相変わらず黙ったままだった。
「あれ、ご主人様一つ足りな~い」
「確かにそうだね。でもこれでいいんだ」
「どういうことです」
「これは二人とリースの分、僕の分は別にあるんだ」
僕は改めて二人に先ほどのヴァルフ達との会話について説明した。最初の内は頭にはてなマークが浮かんでいる様子だったが、だんだんと理解を示しだし、最終的には、目を輝かせながら納得してくれた。
「つまりは看病なのです!!」
「お医者さ~ん」
「そういうことだね」
「ふん、子供たちを利用しようなど、まさに奴隷商人の考えだな」
利用だなんてひどい言い方をしないでほしい、僕よりも同世代の二人の方が話しやすいだろうというある種の配慮なのだ。と言ってもそれで本当にリースが心を開いてくれるかどうかは、賭けなのだが、僕はコチカとクイネの二人を信じると決めたのだ。だから後はなんと言われようとも、二人を信じて任せるのみだ。
「じゃあ、二人ともリースをお願いね、何かあったらすぐに呼んでくれていいからね」
「「あーい」」
子供たちにリースの番を任せ僕は馬車の荷台に入り天幕を閉じた。一応その中ならすぐに駆け付けられるし、それにヴァルフ達の寝床の準備もできるので、やることもある。
「ねえ、君リースっていうの?」
「ああ、そうだが」
「髪きれい~」
「目もキラキラなのです」
「これはその、生まれつきで」
大人たちとは違い、一切悪意のないただ単純に興味本位だけで話しかけてくるコチカとクイネにすっかりとペースを乱され、リースは早々に防戦一方になっていた。その上さらにお腹まで鳴り出してしまい、いよいよどうしようもなくなってしまった。
「お腹空いてる?」
「ご飯の時間なのです」
コチカとクイネは熱々のスープをリースの脇に置くと、楽しそうに食事を始めた。しかしリースはというといまだに節々が痛むため、うまくスプーンを握ることすらもできず、草原の一角にその匙を落とした。
「おてていたい?」
「いや、そうでは、つっ」
どうやら最初にヴァルフに塗られた薬の鎮痛効果が切れつつあり、リースの身体は無理に力を込めると痛みだすようになってきていた。
「食べられない?」
「・・・」
リースは返事することなく、ただ黙ってそっぽを向いてしまった。そんな様子を見かねた二人はまるで示し合わせたように、器と匙をそれぞれが持った。
「リース、はい。あーん」
差し出された匙に戸惑いながらも、これを食べないとここから逃げることもこの先生き抜くこともできない。そうなるともはやリースに選択肢は残されていなかった。彼女は諦めて、コチカが差し出したスプーンを口の中に入れた。
「あ、あつっ」
「えっ」
先ほどまで火にかけられていたスープは、ぐつぐつ煮えており、そのまま食べるには明らかに熱くなりすぎていた。そのことを二人はすっかり忘れていた。
「フーフーを忘れてたのです」
「あちちだね」
「おい」
見たところ自分と同世代くらいの子供に対して怒りを向けたとしても、体力の無駄遣いにしかならないと悟ったリースは言いたいことをぐっとこらえ次の一匙を待ってみることにした。
「今度はよく冷ます~」
「フーフーなのです」
二度目の挑戦ということで今度こそ成功させようと、二人は入念に冷ましてからリースに差し出した。
「どうぞなのです」
「食べて~」
流石にここまでくると、拒むことはできず。リースは差し出された食料を恐る恐る口にした。口の中にいっぱいに食材のうまみとシンプルかつ素朴な味が広がるとともに体温がじんわりと高まっていく。こんな食事を最後に食べたのはあの牢獄を脱走した時以来か、あるいは故郷を離れた時以来かもしれない。
「……おいしい」
気が付けば口から言葉がこぼれていた。それはリース本人の意思に反しており。しかしながら本心に即していた。
「よかった~」
「やっぱりおいしいのです」
リースが喜んでくれたことで、コチカとクイネもまた同様にうれしくなり、次から次へと食べさせていった。




