喜んでいただきます
チセの元を離れた僕は、焚火の前で座っているヴァルフのもとに戻った。
「ご主人様、リースの容体は」
「うん、ヴァルフの処置のおかげで命の危険はないって」
「そうですか、一応軍で救護訓練は受けておりましたが、実践は初めてだったのでうまくいってよかったです。」
ヴァルフは嬉しそうに答えながらも、僕に肉串を差し出した。僕はそれを受け取りさっそく一口かぶりついた。醤油によくにた甘辛なたれと、やや硬いものの歯ごたえ抜群な肉のうまみが同時に僕の口内に襲い掛かりその暴力的なおいしさに思わず、声が漏れる。
「ところでなのですが、リースのことを改めて聞いてもよいでしょうか?」
「うん、いいよ」
「彼女の治療が終わった後はどうするおつもりでしょうか?」
正直言ってまったく先のことを考えていなかった。彼女がどうしてあそこまでの怪我をしたのか、まだどうしてあんな子供が強盗なんかをやって生計を立てているのか、聞くべきことはいろいろとあるが、それを聞いてしまっては、確実に皆を危ない事態に巻き込んでしまう。だがあの状態のリースをほおっておくことなど僕にはできなかった。
「とりあえずは、話をしてみようと思う。今すぐに強盗をやめろなんてことは言えないけど、何か僕らにできることがあるかもしれないし」
「そうですね。今はただできることを着実にこなしてまいりましょう」
そう言いながらヴァルフは手に持っていた肉串を僕の口に押し込んだ。
「なので、やはり最初は腹ごしらえです」
「あ、ありがとう」
危うく窒息しそうになったが、なんとかギリギリのところでヴァルフから串を受け取ったことで、危機を回避することができた。そしてそんな僕を見ておかしそうに笑うヴァルフを見ていると、なんだか難しく考えていたことが、だんだんとシンプルな問題に思えてくる。
「ありがとう。やっぱりヴァルフがいてくれてよかった」
「え、ええ、どうされたのですか突然」
別に大したことは言っていないつもりだが、ヴァルフの顔はこれまで以上に真っ赤になっていた。もしかするとここ最近ずっと働きづめだったからその疲れが出たのかもしれない。
「ただ何となくそう思っただけ」
「そうですか///」
思い返してみれば今までただいてくれるだけでありがたいと思えるような存在に僕は出会ったことがなかった。僕の側にいる人は決まって僕を使って己のリソースを温存しつつ何か事をなそうとするようなものたちばっかりだったと思う。だがこの世界に来てただ言われたことをやってきただけの僕は一番の役立たずになってしまった。だがそんな僕に対してヴァルフはいやな顔一つせずに側にいてくれる。それだけでとても心が落ち着くのだ。
「ヴァルフ、僕はまだまだできることは少ないけど、少ないなりに頑張ってみるよ」
「ええ、その意気でございます。ですがご主人様はそこにいるだけで私たちの支柱となっているのですからあまりご自身を責めすぎないでください。それはご主人様の悪い癖です」
「ごめん」
さっそくヴァルフに痛いところを突かれた僕は、ただ謝ることしかできなかった。しかしヴァルフは相変わらずの笑顔で肉を差し出してきた。
「でもやはり何をするにもまずは食べましょう。チセとリースの分はすでに確保してありますし、子供たちはすでに寝かせました。なので残りは我々の分です。さあご主人様、どうぞ心ゆくまでお召し上がりください」
そう言いつつも自身はしっかりと両手に串を持っているヴァルフを見て、その発言と光景の矛盾にまたしても僕は笑ってしまった。
「ヴァルフも好きなだけ食べていいんだからね」
「いいのですか!!」
「もちろんだよ。今日の功労者はヴァルフなんだし」
「そ、そんなことございませんが。ご主人様がそうおっしゃるのなら喜んでいただきます」
本当は食べる気まんまんだったんだよなと思いつつも彼女の威信のために黙っておくことにした。




