薬の使い過ぎには気を付けて
「皆帰ったよ~」
「おかえりご主人様~」
「おかえりなさいです」
「かなり時間がかかりましたが、なにかトラブルでもありましたか」
流石というべきかチセはしっかりと鼻がきいていた。
「それがですね、夕食前で申し訳ないのですが急患をお願いできないでしょうか」
「急患ですか、わかりました。ではシーツと道具を持ってきます」
チセは慌てて馬車に戻る。だがその間コチカとクイネは僕が買ってきた肉串に夢中になっていた。
「ご主人様これ、食べていいの」
「いいけど、暖めなおしてほうがいいよ」
「すぐには食べられない~」
「ほんの少しかかるだけさ、それとあっちにいるお客さんにも食べさせてあげようと思うんだけどいいかな」
「あい」
「オッケ~イ」
子供たちとも話が付いたため、僕は袋から串を出すと、焚火の周りに並べ、たれのついた肉に火を当てる。パチパチと音を立てながら、肉にまとわりついていたたれが暖められ、そして肉とより一層密接に染みついていく。その香ばしい香りにコチカとクイネのしっぱは先ほどからとどまることなく、左右へと揺れ続けていく。
「ご主人様、このたまらぬ香りは、悪魔的です。これを前にして待てをするなどどんな命令よりも耐え難いことだと思うのですが、一本だけ食してもよろしいでしょうか」
ここまでずっと働きづめだったヴァルフもまた我慢ができなくなり、IQが下がったようなことを言いだした。だがリースとチセには申し訳ないが、これ以上待たせると本当に大変なことになりそうなので、一本だけ食べさせることにした。だが万が一にも彼女たちが全部食べつくしてしまわないように、事前に何本か確保しておき、それを別皿に移して保存しておく。そしてそれが終わったのち、僕はチセのもとに行った。
「容体はどう?」
「ヴァルフさんがしっかりと処置を施してくださいましたので、元はかなりの重傷だったのでしょうけど、外傷はほとんど治っています。しかしいくつか内部までダメージが及んでいるものの回復には時間がかかりそうです」
「そっか、ともかく助かるんだね」
「ええ、しかし・・・」
「しかし?」
「ヴァルフさんは薬を使いすぎですね。そのせいでかなり匂いがきついです」
「ああ、確かに」
チセの話によると傷の程度にもよるが、一つの傷につき、梅干しの種位のサイズをぬり広げれば十分効果はあるというのだが、よくよく思い出してみれば、ヴァルフは二本の指を覆うくらいの量を一度に使っていた。
「とはいえ、私は慣れているので何ともありません」
「流石だね」
正直僕はいまだにきついて思っているので、できるだけ早く肉が焼ける匂いで満たされたあのゾーンに戻りたい。しか治療中のリースには聞きたいことがそれなりにある。
「ところでこちらの方は、昨日ご主人様を襲った強盗ですよね」
「えっ、なんでわかったの、まだ何も言ってないのに」
「医師として働いているうちに人の特徴を覚えるのが得意になりました。そうでないと、務まりませんので」
「もしかしてだけど、こういう人を助けるのに反対だった」
命を救うとはいえ犯罪者を救うということは、場合によっては命を救うことで、別の誰かの命を脅かすことにもなりかねない。そうなってしまっては辛い思いをするのは、紛れもないチセ自身だ。正直ほとんどその場の勢いで連れて帰ってしまったが、本当はもっと慎重に考えるべきだったのかもしれない。
「いえ、たとえ相手がどんな人であっても生きたいと願う物はたとえ無償でも必ず助ける。それがわが父より受け継いだ私の信念です。あの山を下りてから今日までまだ数日でありますが、その信念をまげるつもりはありません」
あの山を下りてからというもののチセは僕らとよく話をするようになった。そうしていろんな彼女を知っていくうちにいかに彼女が人間として自らの軸をしっかりと持っていることを思い知らされる。そのたびに僕自身もまた身が引き締まる気がする。
「ありがとうチセ、引き続きお願いね」
「お任せください。あっ、ご主人様」
「なんだい」
「お肉、熱々のものを後でください」
「ああ、うんわかったよ」
どうやらこの世界の子供たちは皆肉が大好きらしい。正直チセは肉より野菜派だと勝手に思っていたが、どうやらまだまだ僕はチセのことを良く知らないみたいだ。




