白髪の獣人強盗リース
「君はもしかして」
「ご主人様この者を存じているのですか」
「うん、昨日皆に話した強盗だよ」
「まさか、こんな幼子が。間違いないのですか?」
「うん、こんなに綺麗な髪は見たことがないからね」
目の前にいるのは先日僕を襲い財布を奪った強盗だった。確かにあの時から背は小さいと思っていたが、まさか本当に子供だとは思っていなかった。だがそうなってくるといろいろと事情があるのではないかと、勘ぐってしまう。だがそれについて話をする前に彼女の怪我をどうにかしないと、話が終わるよりも先に彼女の命が尽き果ててしまう。
ここまでの道中にも医療機関か薬売りはいくらかあったが、獣人である彼女が利用できるわけがない。
そうなるともはや取れる手段は一つだった。
「ヴァルフ、この子を連れて帰ろう」
「本当によろしいのですか」
「うん、このままにはしておけないよ」
「承知いたしました」
僕は改めてヴァルフと話し合い、売れ残ったチセの薬を彼女に使うことにした。
「近づくな人間、その怪しい薬で私をおかしくするつもりだろう」
「いや、違うよ。これは傷を治す薬だよ」
「嘘だ。そう言ってどれだけの仲間を殺してきたんだ」
手傷を負っているとはいえ、元はこの街で強盗をやっていた身、ひとたびナイフを構えられればうかつに近づけなくなる。その後の何度か試してみたが、近づけないまま、突いたり引いたりを繰り返していた。そんな状況を見かねたヴァルフから飲むタイプではなく、塗るタイプのものを試してはと言われた。というのも薬を作ったとしての僕らにはそれを入れる容器があまりなかった。なので詰められるだけガラスの容器に詰め、残りは軟膏上にすることで安物の布で包むだけで販売できるようにしたのだ。ならば最初からそうすればと思うが、軟膏上にすると、の飲み薬と違い独特なにおいがする。だが今はそうもいっていられないので、僕は塗るタイプの薬を準備している最中ヴァルフはゆっくりと彼女に近づいていった。
「来るな、人間に組した奴隷不在が、私に近づくな」
「確かに私はツレヒト様の奴隷です。ですが今私があなたに近づくのは命令ではなく、私の意思です。私もご主人様も志同じくしてあなたを助けたいのです」
「黙れ!!!!」
強盗が最後の力を振り絞りふるったナイフはヴァルフが伸ばした手を切り裂いた。しかし洞窟での戦いで大けがをした経験があるせいか、ヴァルフは一切動じることなく、手を伸ばし続けた。だが血を流しながらもなお自分に対し向けれる手のひらに強盗は恐怖した。
「お前、いかれてるのか」
「いいえ、ただ痛みには大勢があるだけです。しかし」
ヴァルフは一度強盗から離れ、僕の方に歩み寄った。
「大丈夫ヴァルフ!?」
「はい、痛み自体はなんともありませんが、血が止まりそうにありません」
ヴァルフの傷を見てトラウマがよみがえり、パニックになりそうになっていた僕にヴァルフは優しい笑顔を見せた。すると不思議なことに先ほどまで大いに乱れていた僕の感情が一瞬のうちに凪、頭が急に冷めてさえわたっていく。
「ご主人様チセの薬を使うことをお許しください」
この一言で僕はヴァルフの行動の意図を理解した。なので僕はできるだけ急いで薬を取り出すと、ヴァルフの手のひらの傷に塗った。チセの言う通り薬草独特のにおいがするが塗り広げた部分を中心にどんどん切り裂かれた傷が、ただの跡に変わっていき、流れ出ていた血はすぐに止まった。
「そんな、ありえない。そんな高価な薬を奴隷に使ったのか」
「そうだけど、一つ違うよ。彼女はたしかに僕の奴隷だけど。僕はヴァルフのことを仲間だと思っている、だからこの薬を使ったんだ」
僕からすれば当然の好意だが、やはりこの世界の常識で当てはめると、やはり異常なことだったのかもしれない。だがヴァルフの意図は僕のことを彼女に信用させることと、この薬の効能を自身の身をもって証明したのだ
「ご主人様よろしいですね」
「お願い」
「承知しました」
ヴァルフが改めて軟膏を持って近づくと、今度はすこし恐れながらも激しい抵抗はなく、彼女になされるがままに体中に薬を塗りたくられた
「すげぇ、痛み引いていく。こんな薬一体どこで」
「この街を出てすぐの場所にこの薬の材料となる薬草が大量に取れる地があります。それに我々には医学薬学に通じた仲間もいます。どうか我々を信じてついて来てくれませんか、決してあなたを悪いようにはしません」
「わかった」
全身の開いた傷跡はふさがり、痛みも引いてはいる。それにより逃げる選択肢も生まれたのだが、血を失いすぎたのと、ひどい空腹により抵抗する力は残されていなかった。
「では、行きましょうか」
ヴァルフは強盗の子に背中を見せると、そのままかがみこみ、高さを合わせた
「何のつもりだ」
「あれほどの大量の出血、もはや体に力が入らないのではないですか」
痛いところを突かれ、わかりやすく図星という表情を浮かべた。だがそのことにヴァルフが気が付けたのはやはり彼女もまた経験者であるからであろう
「そういえばまだあなたの名前を聞いていませんでしたね。私はヴァルフ、あなたは」
「リース。リース・フィリス」
「リース、あらためてよろしくお願いします」
ヴァルフ呼びかけに一切返事することはなく、だが抵抗することもなく、なされるがままにヴァルフの背に乗せられた。リースが乗ったことを確認すると、ヴァルフは改めてローブを着なおした。そうすることでシルエットに違和感は生じるが、背中のリースを隠すことができた。
「流石の人の奴隷をまじまじで見る者はいないでしょうが、それでもこの形はかなり目立ちますので、早めに戻るとしましょう。それに」
ヴァルフの視線の先には安全のために一度地面に置いた肉串の袋があった。
「おいしいお肉が冷めてしまいます!!」
「ああ・・・うん、そうだね」
先ほどまで醸し出していた年不相応の大人の余裕が露と消え、今ではすっかりにまだ見ぬ肉の味にワクワクを隠しきれていない子供のような様子に戻った。そのあまりの落差に思わず笑いそうになるが、これが彼女にとっての通常運転であることを思い出し、なんとかこらえた。
「そうだね、皆も待ってる」
僕らはリースを背負い一気に街を抜けた。途中なんどか不穏な視線を浴びながら街中を抜け、検問所に差し掛かった。流石にここでは今まで以上に怪しまれたが、全身に塗った薬の強烈なにおいに衛兵が根負けし、ほとんど確認することもなくそのまま町の外に出してくれた。




