チセ先生の薬草口座
あの山以来二度目の薬草採取に挑んだ僕等であったが、チセのアドバイスのおかげもあり、かなり順調に作業進んでいった。チセがあの山から持ち込んだ籠もどんどん満たされていき、お昼を少し過ぎたころにはほとんど一杯になった。
「皆さん、そろそろ撤収いたしましょう。あまりとりすぎては生態系に影響を及ぼします」
「は~い」
「いっぱい採れた~」
正直僕よりも小柄で俊敏な子供たちの方が多く確保していたのだが、二人にとってほとんど遊び感覚だったようで終始楽しそうだった。
薬草でいっぱいになった籠をヴァルフが背負い、皆が彼女を中心に集合した時僕はずっと気になったことをチセに聞いてみることにした。
「ずっと気になってたんだけど、匂いを出した後の草って使えないの?」
「においの原因は中の種を守るための防衛措置なので、効果は同じですが、薬草や医薬品として使うことは正直推奨されていません。一応できなくはないと、父も言っていましたが、効果が同じなのにあえて匂う物を使いたいとは思わないでしょう?」
「たしかに」
「ただその強烈なにおいは危険な動物から身を守るための道具としての使い方もできますが、やはり体調を崩すリスクの方が大きいですね」
「そっか」
「一応匂いを出さずに掘り出す方法はありますが、結局加工段階でつぶしたりするので、意味がないんです」
「でも、その臭い個体が残るからこそ、何度でも採取できるようになるんだね」
「その通りです」
なんだか少し賢くなったような気がするが、正直チセがいるうちはこの知識が役に立つことはないかもしれない。とはいえ学ぶことが多いということはそれだけ楽しみも多いということだと思うことにした。
「さて、拠点についたら納品分とそれ以外に分けましょうか」
ギルドから納品のための袋を事前にもらっていたが、僕らが採取した量はそれをはるかに上回るものだった。もともと余った分は自分のものにしてもいいとギルドから言われているが、あまり多いのも困りものだ。
「手持ち分はどうするの」
「薬に加工して保存しておこうかと思っています。それでも余るようでしたら加工したものの一部を販売してもよいかもしれませんね」
「なるほど、でもこれだけの量一人で大丈夫?」
「ええ、問題ありません。ですが、夕飯の支度をお願いしたいのですがよろしいでしょうか」
「うん、わかった任せてよ」
「ありがとうございます」
なんて会話をしているうちに僕らは拠点としていた馬車のもとに帰ってきた。留守番を残さなかったのは正直うかつだと思ったが、幸いなにかされたような痕跡もなく、僕らは一安心したのちさっそく各々の仕事に取り掛かった。
ヴァルフと協力してご飯を用意している間、チセは黙々と薬草の加工を続けていた。
「チセ、ご飯ができましたよ」
「はい、今行きます」
長く間没頭していたせいか、チセの額には汗がにじんでいた。
「この薬が多くの人を救うのですね」
ヴァルフはタオルを差し出しながら話した
「ええ、ですが本当のことを言うなら、けが人も病人もいない方が平和でいいんですが、生きている限り怪我も病気もしないなんてありえないことなので、そのために私のような人がいると自覚しています」
「では我々にはチセがいるので、安心して怪我できますね」
ヴァルフがいたずらっぽく言いながらほのかにほほ笑んだ
「できれば、ご自愛いただけるとうれしいのですが」
それに対しチセは苦笑いで返した。




