チセの知識とリーダーシップ
「えっとチセどうしてそんな渋い顔をしてるの」
「いえ、そのご主人様の意向をないがしろにするつもりはありませんが、これには少々苦い思い出が」
そう言ってチセは昔話を始めた。内容を要約すると、修行時代にトクシンさんと共にこの薬草の採取に挑んだ際にうっかり外れを引いてしまい、その強烈な匂いをもろに浴びてしまい、その場で吐いてしまったのだという。普通の人間のチセですら吐いてしまうほどということは五感が人間の数倍優れている獣人族の皆その匂いを浴びてしまえば、運がよくて失神、最悪の場合呼吸が止まり窒息してしまうことすらあり得るという。
「これは少々、選択を誤ったみたいだね」
「・・・」
「遠慮せずに言っていいんだよヴァルフ」
「なんでもありません」
慰謝料覚悟でキャンセルしようかとも思ったが、僕らの空気を察したチセが一息吐いたのち、なぜだか自身ありげな顔をした
「しかし、研鑽を重ねましたので匂う物と匂わない物を完璧に区別できるようになりました」
「おお、流石チセ」
「これくらいは薬学の初歩です」
「初歩なんだ」
命の危険が伴うことが初歩なんて薬学とは命がけの学問なのかと少し怖くなった。
「あくまで私が知る限りではありますが、この薬草は単純に臭いだけなのです。触った個所がかぶれたり、病原菌を含んだ胞子を出すなどといったものが危険な薬草の部類に入りますが、これはあくまで人定に直接的な影響はないので、危険度は低く見積もられれているのです。しかし・・・精神的に辛いことは変えられぬ事実ですが」
「いろいろ苦労したんだね」
きっと見分けられるようになるまで、何度も匂いの餌食になったのだろうと思うと、なんだかチセをいたわりたい気持ちになってきた。
「それでは、群生地はここの近くですが、いろいろと支度がありますので、出発は明日でもよろしいでしょうか」
「うん、特に期限は設けられてないみたいだから。万全の準備で臨もう」
「はい、わかりました」
その後チセが一人でいろいろと用意を整えている間、僕はギルドから支給された道具のスコップを眺めたり、子供たちに使い方を教えたりして過ごした。
そして翌日念のために、昨晩余った布で作った即席のマスクをつけて、僕たちは薬草採取に向かった。事前にもらった情報の通り群生地といわれていた場所には、依頼書のイラストとよく似た草が沢山生えいていた。
「いいですか、皆さん葉っぱのうしろから地中に向けて管のようなものが伸びているものは決して抜かないように、茎と色が同じなのでわかりにくいと思いますが、触ってみると微妙に感触が違います。なので不安なら触ってみてください」
今回はこの中で一番薬草に関する知識があるチセにリーダーになってもらい、僕はあくまでも補佐に徹する形にした。そうした方がいざというときに無駄なタイムロスを減らせるからだ。
「チセ先生質問です」
「はい、ご主人様」
「手で触った際に匂いが付くなどはありますか」
「いいえ、匂いの元は根っこです。地中から引き抜いた際に根についた匂い袋が傷つくことで出ますので、引き抜かなければ大丈夫です」
「そっかよかった」
「ほかには何かありませんか」
僕以外その後誰も手を上げなかったため、質問コーナーはチセの想像よりも早く終わった。
「では、皆さん作業に取り掛かってください。くれぐれも安全には配慮いたしましょう」
チセの号令の下僕らは慎重に群生地に足を踏み入れた。




