強盗にあってしまった
「地図によると、どうやらあの先の外壁が例の街のようです」
地図を広げたチセが指さす先には以前にも見たことがある壁が広がっていた。そこからもう少し進んでみると、町の中へ入るための検査待ちの列が見えてきた。
「一旦この辺りで馬車を止めよう」
僕は街から少し離れた場所に馬車を止めた。
「中に入らないのですか」
確かに街の中には宿屋もあるかもしれないが、そこにヴァルフ達獣人が泊まることができるかわからない。それに彼女たちが人間たちから侮蔑の視線を浴びている様を見るのは心が痛む。だから町から少し離れた木の下に一時的な野営地を設けた。
「じゃあ、僕は買い物に行ってくるから、晩御飯の調達は任せたよ皆」
「あい」
「うい」
「お任せください」
僕が買い物に行く間、ヴァルフは狩りに残りの三人は野草採りに向かう。検査待ちの列は思いのほか長いが、検査官の手際が良いのかあっという間に検査をパスし中に入ることができた。ちなみに話によると、中の宿を使わない人は珍しくもなく、草原にテントを広げたり、僕らと同様に馬車の中で寝泊まりしたりする者もいるらしい。そしてそういう人たちを対象に商売を行う者もいるらしい。
だが町の外で起こることは現行犯でない限りは取り締まりの対象外になるので、そこだけ気を付けてほしいと念を押された。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、この街を楽しんで」
爽やかに迎え入れられ僕は新たな街へと足を踏み入れた。
この街に対して最初に感じた印象は予想以上に活気にあふれているといったものだった。チセの話によるとこの街は周辺の小規模な街や村から商売をしようと多くの者が訪れており、街そのものが巨大な市場のようなものらしい。なのでてっきりセール中のデパートくらいの感覚でいたのだが、完全に想定外の賑わいだった。そのため百メートル進むだけでも、体力の一割を持っていかれてしまった。
だが皆から渡されたリストには必要なものがびっしり書かれているし、このために僕は路銀の三割を持たされている。
とはいえこのままでは買い物を終えるころには日が暮れてしまいそうだ。出来ることならこの大通りを抜け、人の少ない道を進みたいものだと思っていた。その時だった。
「そこのお兄さん、ちょっといいですか」
人込みの中、透き通る声が隅から聞こえてきた。僕はその声の方に顔を向けると、フードをかぶった一人の子供が立っていた。
「どうぞこちらへ。知る人ぞ知る秘密の近道ですよ」
手招きされる方へ人込みをかき分けて進むと、ほのかに薄暗いが人気が全くない裏路地に出た。
「見たところこの街は初めてですか」
「ええ、まあ」
「そうですか」
「えっと、この街の人ですか?」
見たところ成人しているかどうか怪しいが、今わかる情報が背丈が小さいこと以外何もないので、はっきりとは断言できない。
「はい、ここでもう3年暮らしています」
「それは助かります。あのもしよろしければこのまま案内をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
正直このままでは埒が明かないので、せっかく出会った現地の方にお勧めの店なども踏まえて案内してもらった方が絶対に良いとそう思っていた。
「その必要はありません。だって」
それまでずっと僕の先を歩いていた人が急に振り返ると、次の瞬間僕の喉元にはナイフが突きつけられていた。
「有り金全部おいていけ、さもなくば殺す」
その時初めて、僕は襲ってきた者の顔を見た。彼女はまだ幼い子供で年はコチカとクイネの一つか二つくらい上で、瞳の形はヴァルフとよく似ているが、彼女との決定的な違いは、深い海の底から見上げた水面のような深く、そして透き通ったマリンブルーの瞳だった。
だがそんなことを深く気にする余裕は今の状況にはなかった。
僕は言われるがまま、財布を取り出し彼女に渡した。
「貴様はえらく利口だな。だが命拾いしたな」
彼女はナイフをゆっくりと下げると、腰につけた鞘にしまい、そのまま路地裏に消えていった。
「……怖かった」
こうして僕は一瞬にして、有り金の全てを失った。




