物資が足りない
その後の話によると、馬車の修理は完璧に終わっており。すぐにでも出発できるとのことだったが。僕らが山頂で過ごしているうちに事前に買っておいた食料のほとんどがダメになってしまっていたので、村の住人が代わりに食べてしまったようだった。しかし消費した分は保存がきく別のものに入れ替えてくれていたようなので、僕らは何一つ不満を漏らすことはなかった。逆に獣人の皆にとっては乾燥肉などは味が熟成され、普通に焼いた時よりもおいしいと逆に好評だった。
それ以外にもチセの旅立ちということもあり、多くの村人が旅に役立つものから個人的な贈り物まで多くの物資が詰め込まれていった。
「それでは皆さん、大変お世話になりました」
村の入り口に集まった村人たちに挨拶をしたのち、馬車の荷台に乗り込んだ
「ツレヒト様、出してください」
「わかった、ヴァルフお願い」
「承知」
ヴァルフが馬に鞭うち馬車を走らせた
「チセ様~どうかお気をつけて」
「いつでも帰っておいで~」
「おねぇちゃん、またね~」
「皆様もどうかお元気で~」
村人たちからの熱い送り出しを一身に受けながら、チセはそれらに笑顔で答えた。
そこから数日の間僕らの旅は驚くほどに順調に進んでいった。村の人たちからの贈り物の一つにあった地図は驚くほど正確で、なおかつ危険な場所や野営に適した池など多くのおまけ情報が付いていた。話によるとこれはもともとこの村に訪れた旅人に売るものではなく、自分たちが別の町との物資のやり取りのために使っていたものだった。そんなものをもらってよいのかと思うが、チセが旅立つと知り急いでコピーを作ったらしい。
「皆さま、食事ができましたよ」
「は~い」
ちなみに食事の当番はヴァルフとチセが交代で担うようになり、負担が減ったことと食べられる食材のバリエーションが増えたことで、僕らの食生活は格段に改善した。
「おいし~い」
「うま~」
「これは初めて食べる植物ですが、なかなか美味です」
今僕らが食べているものの一つに、チセが採取した野草をもらった調味料で和えたものだが、昔食べたほうれん草に味が似ている。食事が終わると、子供たちはすぐさま眠りにつき、チセは小さなランタンの明かりを頼りに医術の勉強に励んでいた。
「ご主人様、少しよろしいでしょうか」
「どうしたの」
僕はというと、眠くなるまで焚火の番をしていたところ、ヴァルフが地図を持って声をかけた。
「チセへの贈り物のおかげで物資はまだある程度余裕がありますが、この先の街を無視しますと、しばらくは平原と農村が続きます。ですので可能なうちに消耗品の補充を行いたいと思うのですが、いかがでしょうか?」
確かに地図を見ると、この先にそこそこの規模の街があるが、その先を抜けると、小さな農村が点在するばかりだった。農村なら食料の補充はできるだろうが、ランタンの燃料に使っている油や、保存のためにも使っていた調味料や、身体を洗うために使っていた石鹸などももう残り少ない。これまでは獣人の皆が偏見や迫害に苦しまないように、大きな町を避けて進んできたが。とうとうそうも言っていられない事態になってきた。
「そうだね、なら一回ここに立ち寄ろうか」
「ありがとうございます。ご主人様」
「いいや、お礼を言うのは僕の方だよ、全然気が付かなかった」
実際この旅において僕はほとんど何もしていない。たまに子供たちと遊んだりしているが、チセとヴァルフというあまりにも優秀すぎる旅の仲間たちに仕事のほとんどを奪われていた。
「おねぇちゃ~ん」
馬車の方からコチカのものと思われる寝言が聞こえてきた。
「あらあら、それではご主人様子供たちが呼んでおりますので、お先に失礼いたします」
「うん、お休み」
ヴァルフを見送った僕は、その後しばらく焚火を眺めたのち、眠りについた。




