大切な話
「失礼します」
そう言って部屋に乱暴に入ってきたのはチセだった。
「どうしたのですか」
「師匠が、発作を起こして倒れました。なので今薬を」
そう言ってチセは薬棚をあさり、薬包を一つ手に取ると、大急ぎで戻った。
「私は問題ないので、ご主人様も行ってください」
「わかった。またねヴァルフ」
「はい、また」
僕も大急ぎで先ほどの庭に戻ると、縁側に倒れているトクシンさんにチセが薬を飲ませていた。彼の顔色はとても悪く、呼吸もかなり荒くなっていた。
「ご主人様、お医者さんが」
コチカとクイネの二人も突然のことに動揺してしまい、食べかけであろう魚を地面に落としてしまっていた。
「ここ最近は調子もよかったのに、どうしてこんな急に」
調子が良かったと言っているが、それはきっとトクシンさんが苦しんでいる様子をチセに見せないよう、裏でいろいろと工夫していたからであろう。しかしそれも限界が来てしまっていた。
「皆さま・・・慌てないでください」
トクシンさんは息を吹き返すと、いつも通りのゆっくりペースで話し出した。
「チセ助かりました。ここ最近はどうも具合がよかったので、油断していました」
「まったくです。薬はいつも持ち歩くようにとあれほど言ったではありませんか」
「はは、弟子に薬のことで世話を焼かれては、いよいよ引退の時も近いですかな」
「冗談言ってないで、急いで寝室へ。今はゆっくり休んでください」
「では、そうさせていただくとしましょう。皆様もお騒がせしてしまい、申し訳ございません」
チセに肩を借りながら、トクシンさんはその場を後にした。残されたコチカとクイネがうるんだ瞳で僕の方を見つめてきた。
「お医者大丈夫なのです?」
「うん、お薬を飲んだから大丈夫だと思う……」
二人のことを思うと断言してあげた方がいいのだが、あの苦しそうな様子を見た後だと説得力に欠けると思う。
「お魚食べたら治る~?」
「どうだろうね」
一応あと一匹だけ焼き魚が残ってはいたが、今のトクシンさんに食欲があるかは疑問の余地がある。
「とりあえず、火を消して部屋に戻ろうか」
ここにいてもできることはないので、僕は庭の砂で火を消したのち二人を連れて、泊っている部屋に戻った。それからもトクシンさんのことが心配なのか、二人はずっとそわそわしていた。
そんな時、額に大量の汗をかいたチセが再び僕らのもとに訪れた。
「商人様、私と師匠の部屋へおいでください、残りのお二人はヴァルフ様の病室へお願いします」
「わかりました。行こうか二人とも」
僕はコチカとクイネの背を支えながら、ヴァルフの病室に連れて行った。その後、僕はチセと共にトクシンさんの病室に赴いた。そこには着替えを済ませたトクシンさんが布団の中で横になっていたのだが、彼の手首には点滴がつながれていた。
「ツレヒト様、チセもご苦労様です」
「いえ、僕なら平気です。それよりもトクシンさんは」
「なんともないと言えば噓になりますが、それよりも大事なお話をしなければいけませんので」
「師匠、私は出ています」
「いいえ、あなたも残ってください」
「はい」
トクシンさんに言われ、チセは改めて座りなおした。
「ツレヒト様、昨晩お話したことは覚えておいでですね」
「はい」
「少々早いようですが、もう時間がありません。お返事を聞かせていただけないですか」
「待ってください。そもそも昨晩のお話とは何ですか」
たしかにチセにとっては何が何だか分からない状況だった。だから僕が説明しようとしたのだが、トクシンさんは手を上げて僕を制した。
「それはですね。チセあなたをツレヒト様の旅に同行させるということです」
トクシンさんの告白にチセは驚愕のあまり、開いた口が塞がらなかった。




