奴隷商人とは・・・
「え、いきなりなんてことを」
今初めて会った男の奴隷になりたいなどど元居た世界では考えられないような言動に、僕は思わずのけぞった。だがひとまずは訳を聞いてみることにした。
「どうして、そんなことを」
「私たち奴隷がこの世界で生きていくには、奴隷商人の配下につくほかありません。そうしなければ人権のない我々は何の理由もなく殺されてしまいます。ですのでどうかお願いします」
何となく状況は理解した。だがまだまだ分からないことの方が多い、ならば本当の奴隷にするかどうかは一旦保留にしておいて、彼女からいろいろと教えてもらうことは決して悪いことではない。
「わかりました。えっと」
「ヴァルフです」
「ヴァルフさん、僕はここに来たばかりでまだなにもわかりません。だからいろいろと教えてください」
「わかりました。まずはなにからご説明すればよいでしょうか?」
「そうだね、じゃあどうして僕が奴隷商人だとわかったんですか」
僕はまだ名乗ってすらいない。なのに真っ先に奴隷商人だと見破ったのには何か理由があるはず、僕はそれを探りたかった。
「奴隷商人は国家公認の職業です。なのでそれに就かれる者には国王から専用の宝石を賜るのです。あなた様の胸元についているのがその宝石です」
「なるほど、でこれはいったいどんな効果が」
「申し訳ございません。それはわかりかねます」
触ってみたところ何も感じない。なにか特別な石というわけではないのかもしれない。
「わかった。じゃあ次の質問。どうして僕の奴隷になろうとしたんです」
「それは・・・」
それまでハキハキとしゃべっていたのに、急に言葉が出てこなくなった。そしてわずかな間だが後ろにいるふたりの子供に視線をやった。その仕草だけでおおよその理由は察しがついた。
「子供たちのためなんですね。二人はヴァルフさんの姉妹か何かですか」
「いいえ、私たち三人に血のつながりはありません。ですがここ数年は同じ方に仕えておりました。ですが」
その人はついさっき目の前で死んだ。ゆえに彼女たちは主を失った。
「つまりは生きていくために、働き口と保証人が欲しいということですね」
「はい」
「お姉ちゃん」
「大丈夫よ、二人とも」
正直お金はあれどいつまで食いつないでいけるかはわからない。かといって見たところ小学生くらいの子供を無責任にあずかれるほど、僕は大人ではない。でも見捨てるのも目覚めが悪い。
「わかりました。ひとまずは三人とも僕と一緒に来てください」
「ありがとうございます!! 二人ともお礼を」
「ありがとうございますなのです」
「ありがと~ございます」
しゃべり方が独特ながらもしっかりと礼節ができていた。これならば子供特有のもめごとを起こすことはないだろう。しかし年相応かと言わればそうではない気がする。
「えっと、それじゃあまずは自己紹介をしませんか。僕は連人っていいます」
「では改めて私からもご挨拶を、狼人族のヴァルフ・ツァリと申します。お好きなように呼んでいただいてかまいません。二人とも自己紹介を」
ヴァルフと名乗った女性の頭頂部には確かに狼の耳が生えていた。これが属にいう獣人という物なのだと理解できたが、それは僕がこれまで読んできたものの影響だ。
「クイネ・コピルなのです。犬人族なのです」
「コチカ~コチカ・バーンです。猫人族~」
正直人の名前を覚えるのは苦手なのだが、二人とも特徴的な話し方をするので、何とか覚えられそうだ。それに獣人と言ってもそれなりに種類がいるのだろう。そうなるとできることも違ってくるのだろう。とはいえそれを考えるのはいまではない気がする
「それじゃあ、ヴァルフさん、クイネさん、コチカさん。よろしくお願いします」
ひとまずは僕は最初の旅の供を得たのだった。




