最初に出会った奴隷たち
とりあえず体を起こしあたりを見渡してみると、360度草原が続いているが、そのはるか奥に巨大な壁のようなものが見えた
「あそこが最初の街かな。まあいきなり町中に放り出されたら・・・怖いからな」
とはいえひとまずは街に向かわないことには、何も始まらないので、寝心地のいい原っぱから立ち上がり歩き出そうとした時だった。突如として大きな音がしたかと思うと、僕のすぐ横で馬車がひっくり返っていた。
「ご主人様、ご主人様」
なにやら女性の声が聞こえるので、ゆっくりと歩み寄ってみる。
「えっと、どうされましたか」
「馬車が横転してしまい、ご主人様が」
茶色の長髪の女性が慌てた様子で指さす先には中年くらいの男性が馬車の真横で倒れていた。かがんで観察してみると額から血を流し、そして口の周りにも血が付いておりそれが吐血の後だと、わかった。
「えっと、安心してください。今薬を」
着ていた服のポケットに手を入れ、神様からもらった薬を取り出し、彼の口に流し込もうとした。しかしそこで僕の手が止まった。
「これ・・・」
慌てていたせいで視界が狭くなっていたが、薬を手にしたことで直せるという確信が持てたことで見えてしまった。腹部の激しい負傷、それに足が馬車の下敷きになっている。
「どうされたのですか、早く薬を」
「・・・もう無理です」
「えっ」
「彼はもう助かりません」
「そんな、まだやってもないのに」
僕は保健体育の際に習った方法で脈を取ろうとしてみる、しかし目の前の男性からは脈が取れず、口元に手をやってもなにも感じることはない。つまりは彼はもう死んでいる。
『一応言っておくけど、この薬はなんでも治せるけど、死んだ人を生き返らせることはできないからね』
神様がそう言っていたことを思い出し、僕は手をひっこめた。
「どうか、お願いですご主人様をどうか、げほっ」
話しながら女性の方もまた、口から血を吐いた。よく見てみると脇腹が赤く染まっている。
「あなたもけがを」
「これくらい・・・」
強がってはいるが、手で隠すように傷口をふさいでいる。
「お姉ちゃん」
「大丈夫」
さらに追加で声がしたかと思うと、背後から二人の子供が現れた。
「クイネ、コチカ大丈夫だよ。それより二人とも怪我はない?」
「大丈夫なのです」
「うん」
「そう、よかった」
自身が安心していい状況ではないながらも、子供たちを落ち着かせるために必死に笑顔を作っている彼女の姿から、底知れない優しさを感じた。それはこれまで僕が感じたことのないものだった。だから気が付いた時には言葉が先に出ていた。
「あの、どうかこの薬を使ってください」
「えっ」
「この人はもう助かりませんが、あなたはまだ助かります。それにあなたはここで死んではいけない気がします」
「そんな・・・」
正直これは物語にあるような運命の出会いという物ではない気がする。だがきっとこれまで見てきた主人公だったらきっと迷うことなくこうしただろう。
「・・・」
判断に迷っている様子を子供たちがじっと見つめている。きっと心配でたまらないのだろう。当然だ。まだ幼い彼女にとって目の前で死んでいる男性と、この女性が数少ない頼れる人なのだろう。
「・・・わかりました。この御恩は私の身をもって返させていただきます」
女性は僕から薬瓶を受け取ると、ためらうことなく中身を飲み干した。すると緑色の優しい光に包まれ、みるみるうちに傷が治っていった。
「具合はどうですか?」
「血は止まったようです。それに傷もふさがっています。本当になんとお礼を申し上げたらいいか」
「いいですよ。それよりもほら、子供たちのところへ行ってあげてください」
「その前に、ぶしつけではありますが、もう一つお願いしてもよろしいでしょうか」
「なんでしょうか」
「私を、いえ私たちをあなたの奴隷にしてください」




